読後感「毛沢東」遠藤誉 著

サブタイトル「日本軍と共謀した男」となっている。著者は1941年生まれの物理学者であるが、満州の長春生まれで1952年日本に引き上げてくるまで、即ち小学生の半ばまで中国で過ごさざるを得なかった。当然先の大戦末期から中国内戦を経て共産党支配が確立した中国で厳しい実体験しているわけである。物心のつき始めに体験した地獄から命拾いをし、初等教育で共産党思想を刷り込まれているので共産党思想に凝り固まっているかと思いきや、逆に中国国内の複雑な社会事情に関心が移り、複数の言語に堪能なことも加わったせいでもあろう、日中関係については立派な歴史研究家となり、このような著述になったようだ。

著者の思想的立場についてもう少し敷衍すると、一般的な共産党思想はさておき、中国を統一国家ならしめている思想、即ち毛沢東思想に疑問を持っていることだけは間違いない。読者の感想として言えば「社会思想なんてものは所詮権力者の闘争用の道具にすぎぬ」かのようである。著者は実体験した中国の内戦から日中戦争まで遡って歴史を探求している。そして幼いころに、徹底的に「悪」と刷り込まれた中華民国と国民党政府、そのリーダーであった蒋介石の思想などに惹かれ始めたのである。

そして中華人民共和国内で神にも等しい存在となった(なっているかな)毛沢東について深く知れば知る程疑問が湧いてきたのだろう。その疑問符が付いた部分を検証した事実を披歴したのが本書である。毛沢東の生い立ちから簡単に述べてくれているが、(著者が小学生時代に中国の人口は6億人と教わったようだ)これだけの人口を掌握するに至った人物であるから相当非凡な人物であるのは確かだ。田名角栄氏に似てなくも無いがスケールが大分違うかもしれぬ。

政権を奪取するまでの道のりに立ちはだかったのは蒋介石だけでなく、国内には他にもいるし、日本軍とか敵は重層的に存在しているわけである。お互いにある時は味方となり敵になりを繰り返して、最終的に権力を手にすると、不都合な過去を知る者は全員殺してしまう。毛沢東が殺した自国民は7000万人とも云われるらしいから凄まじい。

前世紀前半の中国は清王朝なんて言っても、江戸末期の日本以上に群雄割拠の状態だったに違いない。ここに世界中の先進国が侵略してきたわけであるが、中でも突出していたのが日本だったようだ。毛沢東は当初ソ連のコミンテル(共産主義)も利用したが、侵略してきた日本軍も巧みに利用して、結果的には最大のライバル蒋介石を台湾に追い落として自分の帝国を完成させたようで、これが本書のサブタイトルになっている。

この間の権謀術策はとても日本の極楽とんぼ連中には理解できないだろう。スパイ小説が好きでよく読むが、小説の世界だけのことかと思うことが現実に存在したことでもあり、現在も存在しているだろう。兎に角、歴史を正しく理解することが難しいことだけは確かである。

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