2020年11月8日日曜日

読後感「ジョン・ボルトン回顧録」

ジョン・ボルトン著 梅原季哉訳

 ハードカバーで500ページ以上の大著なので読み終わるまで10日以上掛かったが、アメリカ大統領選真っ只中だったので余計興味深く読めた。副題に<トランプ大統領との453日>とあり、原題は『それが起きた部屋(The room where it happened)』である。著者は昨年9月10日までホワイトハウスの中に執務室を持つ 国家安全保障問題担当大統領補佐官で、日本にも度々来ていた人物、即ちアメリカ政府の外交問題に関する最も重要な高官だった。

その人物が退職後1年も経たずにこれだけの著作を表すというのはただ事ではない。毎日のように大統領と接して1年半に亘って外交上のアドバイスをしていたのだから、ホワイトハウス内(即ちアメリカ政府内)の最重要機密を知り尽くしていることになる。政府側もこの出版をできれば差し止めたかったことだろう。しかし著者の法律家、弁護士として頭の良さは居残ったスタッフのその努力を全く寄せ付けなかった。

著者自身があとがきで述べているが、政府に依るチェックは繰り返し行われても、公務員として誓約している秘密漏洩防止に引っかかるような記述は一切ナシとして出版を承認するしか無かったようだ。しかしよく読むとトランプ大統領の異常さ、頭の悪さは十分すぎるくらい丁寧に書き込まれている。何よりもも大統領が国家に対する責任より個人的利益、と言うと誤解されるかしれぬが、個人の人気とか次の選挙にどう響くかということを優先してしまう癖が重大な局面で出て、スタッフが練ってきた政策を潰してしまうことが多すぎたようだ。

しかし著者は1歳の赤子をあやすような思いで我慢に我慢を重ねてなんとか大統領をハンドリングしてきたことがよく分かる。根っから商売人でディールによって外交が解決可能と信じる戦争嫌いの大統領も、この補佐官が恐らく性格的にも合わない筋金入りの超保守で、頭が良くて非情に論理的であることは当然最初から分かっていた。しかし積み上げてきた外交手腕を捨てる訳にはいかなかった。だから結果的にはこの思想の違いが二人を別れさせたのも間違いない。著者は1年半の間に北朝鮮、ウクライナ、アフガン、イラク、シリア、イラン、ベネゼラ等きな臭い各地を駆け巡り、大統領即ちアメリカのために相当な件数の外交の下工作をしている。

外交は対象国との下交渉は勿論だが、国内においても様々な要因が複雑に絡み合うので政府内の調整が大変だったようだ。政権内でこれがうまくいかないこともあるし、何よりも大統領自身の思いつきが閣内で調整が済んだはずの案件をひっくり返すことがままあったようだ。日本との関係で一つ上げれば、イランとの調整を日本の安倍首相に依頼した件。これも全く大統領の思いつきで既定路線にブレーキを掛けることになった。後に大統領自身も「あれは大失敗だった」と安倍氏言ったらしいが、あとがきによれば日本外務省ホームページは全く違う書き方になっているそうだ。この辺から著者は「やっていられぬ。」との思いを抱くようになったらしい。

*昨日の原稿が何らかの不手際で消えてしまったので、今日は早めにアップする。

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