読後感「聖域巡礼」李建華著

著者は北京在住のれっきとした中国人であり、本書は翻訳されたものではなく著者自身が日本語で執筆されている。実はこの著者と今月初めにネパールへの団体旅行の経由地、成都で合流してそれから10日近く一緒に旅行した。その不思議な縁に導かれて本書を読むことになった次第である。

著者との出会いも不思議だが、昔からチベットに惹かれる思いがあったのも事実。と言うのは現役時代の終盤に在籍した会社が広告よりテレビ番組制作に力を注いでいて、そこで企画立案に参加した時のことだ。当時興味を持ち始めたのがチベット、行ったことがないので単なる想像に過ぎないが、標高が高く住む人も少ないが仏教遺跡が多く神秘性を秘めた土地が凄く魅力的に思えたのだ。
結局1年以上に亘るリサーチの末、グゲ王国の遺跡を探訪、その興亡に関する歴史をテーマとする企画が採用されてテレビ朝日で放送には至ったが、相当難産だったし、取材クルーに同行もできなかった。本書の第1章に「グゲ」の2文字を発見したことにも不思議な縁を感じてしまった。

前書きが長くなり過ぎたが、本書は著者の今世紀初頭の12年間で8回に及ぶチベットへの紀行文集である。

現在の中国行政単位としてのチベット自治区は日本の約3倍の広がりで、人口約270万人とされているが、著者はチベット民族が居住している周辺の州を含めチベット即ち聖域(西域でないことに注目)と見做し、今でもこの地域を隈なく歩きたい知りたいと思っているに違いない。紹介されている8回は毎回異なるルートであり、文章も素晴らしいがたっぷり掲載されている写真、これがチベットの荒々しくも美しい光景と住民の生活の様子を如実に物語っている。

著者について、出身地は中国東北部の吉林省長春市とのこと。その人が何故日本に興味を持ち、広島大学に留学までしたかについては聞けていない。この本の版元が京都にある禅文化研究所であることや、氏のブログを見たりすると、インドから中国経由で日本に伝わった宗教に大いに関心があることは分かる。チベットは仏教の原型が今なお色濃く残っている地域であることも間違いあるまい。

宗教に深い知識は無いが、未だに山歩きする気持ちが起きたりするのは原始宗教と共通する何かがあるのかもしれぬ。機械文明が世界中を席巻している現在、人類は本当の幸せを忘れているようにも思うが、著者もきっと似たような思いで、精神の安らぎを求めてチベットを何度も訪れたのだろう。

*著者のブログ:https://www.zenbunka.or.jp/zenken/archives/2018/11/16/


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