古き良き日

先週豊島区立図書館から借りて読んだ本に山本夏彦著「最後の波の音」 文春文庫 がある。返却してしまったので詳細な読後感は書けないが、単行本としては最後の作品の筈。1925年(大正4年)生まれなので15歳先輩である。以前四谷新道の小料理屋で何回か顔を合わせたことがある。この人一風変わったインテリで、本物の江戸っ子を自認して古き良き日本をこよなく愛し、現代をやや斜めに観ていたので随筆は面白い。

若い時(15歳頃)に不思議な故あってフランスに渡り向こうの学校を卒業した(日本の大学は出ていないかもしれぬ)。父が文学者だったこともあり、明治時代の文学者への思い入れも深い。終生小さな木工業界誌の発行人でもあり、ここに毎号随筆を載せて多くの随筆作家から親しまれ、終いにはメジャーな雑誌新聞でレギュラー頁を持つようになる。本書は殆ど晩年に書かれた作品と思われるので、どうしても現代社会への批判めいた話が多いのはやむを得ない。

歳を取ると誰も同じだと思うが、どうしても昔が懐かしく、今に比べると昔が良かったことになる。その昔も自分が本当に体験したよりちょっと前、両親や祖父母から聞いた時代が強く印象に残るのだろう。山本氏で言えば明治初年から江戸時代末期の日本だったかもしれぬ。歳を取れば取る程その時代を深く知りたくもなるようだ。我が身に置き換えれば、正に大正時代がそうだろうが、残念ながら殆ど知るところが無い。だから著者の作品が面白いのかもしれぬ。

新聞なんか毎日読む必要がない、10年前の今日の新聞を読んでみろ。今とどこが違うと言うのか。世の中寄せては返す波と同じ、変わらぬことは金欲と愛欲、大衆がスキャンダルを好むことも同じこと。もし賄賂を貰える立場になれば誰もが受け取る、たまたま己がその立場になれなかっただけにすぎない。言われてみればそうかもしれぬ。正しい日本語についても同じことで、昔風の言葉遣いが正しく、現代人の使う日本語は聞くに堪えない風情でもある。

どの年齢まで現代っ子と言っていいか分からぬが、現代の風俗に馴染むのは老人には些かしんどいところもある。山本氏のように故事に豊富な知見でもあれば現代を皮肉りながら楽しく過ごせるのであろうが、凡俗はそうは参らぬ。新聞こそ宅配を断ったが、必死になってテレビを観たり、ネットを見る毎日を送っている。

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