2016年2月12日金曜日

読後感「さらば、資本主義」佐伯啓思著

著者は東大出のバリバリ経済学者でありながら、現在自らを社会学者と位置づけて、単に経済問題に留まらず、もっと広い角度から社会を分析して雑誌なども含め情報を発信している。本書は「新潮45」で一昨年10月号から昨年9月号までに掲載したものを纏めて編集されたものであった。従って第2次安倍内閣が絶頂期にあった時代に執筆されている。

ここに来てアベノミクスが少し変調をきたしているようだ。その原因理由については諸説飛び交っていて、素人はどれが正しいか全く判断できない、安倍総理やその周辺では変調をきたしていること自体を認めていない。しかし批判する側は政策が根本的に間違っていると指摘するが、その説明に及ぶと専門的すぎてとても理解できなくなる。ところが今日本書を読んで、その理由が見事に分かったような気がする。経済と言う素人には難しすぎる分野について、素人にも非常に分かり易い文章になっていることを第一に評価したい。

本書ではアベノミクスの3本の矢にも勿論触れてはいるが、それが本論ではない。本論は19世紀以降資本主義が如何にして誕生し、それが人類にとって如何なる貢献をしてきたか。そして最終的に現在に至り、人類にどんな影響を及ぼしつつあるかがメインテーマになっている。手っ取り早く言えば、資本主義は基本的に供給者の論理であり、自由と効率性を追求する経済成長によって人類の繁栄に寄与してきたが、人間社会がほゞ欲しいものを手にしてしまうと、後は貧富の格差が拡大するのが必然である。

従って19世紀末の西欧諸国とか大戦後の日本に於いては有効に機能したと言える。しかし現在の日本のように欲しいものがほゞ充足されてしまうと、資本主義の経済成長理論で需要を喚起することは出来ないとのことである。更に著者が指摘するのが経済学の限界と言うべきもので、インチキとは言わないが、アメリカの経済学者が数学的に人間社会の生態を分析できるとしたことに無理があると指摘する。因みに経済学は社会学の下位に位置付けるべきとのこと、嬉しくなった。

そして「トマ・ピケティと福沢諭吉が示す、経済と文明の禍福」との1章を設けて著者は東大の出身でアメリカの大学で教育されたにもかかわらず、現在有名なフランスの経済学者と並んで福澤先生を引き合いに出されたことには少し感激した。「文明論之概略」からの引用が主であるが、国家の独立を言い、思想哲学の重要性を説いている。要は日本人全員に対し、経済成長路線の是非ではなしに、他に考えることがあるでしょうとの意である。

他にもアベノミクス3本の矢について、経済学的にも論理破綻なのでうまく機能しないことを予言したりもしている。図書館で居眠りもせず一気に読み終わったのも珍しい。



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