2015年6月28日日曜日

読後感「無私の日本人」磯田道史著

著者は2003年に『武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新』で新潮ドキュメント賞を受賞しているので、既に作家としての地位は確立しているのだろうが、著書は読んだことが無かった。しかし歴史学者としてはテレビで再三見ているのでよく知っていた。土曜日に偶然書店で本書に出会い、購入して一気に読んでしまった。巻末に数学者でもある藤原正彦氏が「論理と情緒を兼ね備えた人」題して一文を寄せている。

世に埋もれた人間に焦点をおいた3篇の作品からなっているが、以下に引用させてもらう一文に全く同感で、感想は尽きている。

『無私の日本人を拾い出し、その惻隠、献身、謙譲を描いている。共に日本人の誇るべき、そして近年忘れらてきた美徳と言ってよい。著者は昨今の日本の姿を、歴史学者としての目で、日本本来の姿ではないと明察しているのではないか。ものの価値を悉く金銭で計るというアメリカ流の新自由主義が跳梁跋扈し、経済至上主義にすっかり染まった人々は競争と評価に追い詰められ、本来の日本人らしさを失っている。これを観て磯田氏は「これは違う」と義憤を感じているのではないか。幕末維新の頃来日した多くの欧米人は「日本人は貧しい。しかし幸せそうだ」と首をひねった。欧米では、貧しいとは惨めで不幸と言うのが常識だったからだ。この日本人の不思議に対する回答の鍵が本書にあるような気がした。』

歴史上著名な人物を描いた物語では知り得ぬ江戸時代の日本について、教えられることが多いのみならず、久々に心温まる書物に触れてホッとする思いだ。

0 件のコメント: