読後感「暴露 スノーデンが私に託したファイル」グレン・グリーンウォルド 著
田口俊樹、濱野大道、 武藤陽生 訳

日本では今月14日に発売なったばかりの本だが、世界ではかなり売れているに違いない。現在ロシアで1年間の滞在を認められているエドワード・スノーデンとは如何なる人物であり、彼が告発した内容が何であったか。かなり知っているつもりであったが、全て的が外れていたことが分かった。暴露されては困るアメリカの盗聴記録、例えばメルケル・ドイツ首相の通話記録なんかを持ち出したに違いないといったところが大方の理解ではなかろうか。

しかしエドワード・スノーデンが持ち出したファイルにメルケル首相の通話記録があったかどうかは問題としていない。この本が指摘する問題の根本は、持ち出さ板ファイルの量とかコンテンツ(中身)ではない。アメリカが国家として、換言すると米国家安全保障局(NSA)組織的にが世界中のあらゆる通信記録を収集してファイル化している事実を告発したことにある。

著者は英国の新聞「ガーディアン」のニューヨーク支社と契約しているジャーナリストのグレン・グリーンウォルド氏。ガーディアン紙は関連する一連の報道でピューリッツァー賞を受賞している。著者グリーンウォルド氏の住まいは南米のリオデジャネイロというのもびっくりした。当初は未知のコンテンツでも記載されていることを期待して購入したのだが、その意味では全くの期待外れ。そもそもスノーデン氏や著者にはコンテンツを暴露してスキャンダル化する意思は最初から無くて、目的が先に書いた通り別にあった。

本書では「メタデータ」なる言葉が使われるが、米国家安全保障局に蓄積されるそれは、アメリカ市民が常に政府から監視を受けることであり、自由を制限される意味において、使い方一つで非常に危険なものになる。国家安全保障局(NSA)と中央情報局(CIA)という合衆国の二大情報機関に在籍したスノーデン氏は勿論だが、ジャーナリストの著者はこの点いくら強調してもしきれない程の思いがある。

少し本書の内容に立ち入ると、著者がスノーデン氏から最初の接触を受ける場面から始まり、スノーデン氏と接触してガーディアン紙のインターネットサイトで告発に踏み切るまでの前半は、まるで世界を股にかけたスパイ小説を読むような面白さである。著者はジャーナリストとは言え、告発内容を知っているので、まかり間違えば国家反逆罪にもなりかねない危険性は十分承知しているし、スノーデン氏はアメリカの施政圏内に戻れば逮捕されることも覚悟の上である。

当然ながら英国紙と言ってもガーディアンも、記事発表までは社内の弁護士を総動員してアメリカ政府とも交渉している。ここで面白いなと思ったことが一つ、ニューヨークタイムズやワシントンポストのような一流紙でも、政府を告発することには相当慎重で、事前にかなり綿密なすり合わせをしている。まして日本みたいに政権べったりの記者クラブ制度に頼る新聞が、まともな政府批判など書ける訳がないと、妙な納得をしてしまった。

一応毎日インターネットに接続して、セキュリティーについても多小の知識を持ち合わせているつもりだが、インターネット通信が如何に恐ろしいものかを教えてもらった思いがする。アメリカが重要な情報を共有する国をファイブアイズ(アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド)と言うことも初めて知った。メタデータがアメリカ市民を脅かすことが中心で書かれているが、外国に対する経済政策や外交交渉では常にアメリカが優位に立つのもそのお陰である。

日本政府はスノーデンが告発した事実について、アメリカに対して一言も抗議をしていないが、しても始まらないくらいダダ漏れであることを承知しているのだろう。

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