2012年6月6日水曜日

読後感「TPPはいらない」 篠原 孝 著
-グローバリゼイションからジャパナイゼイションへ-

著者は現役衆議院議員(長野一区民主党)で高校の後輩でもある。現役政治家の書く本なんか自慢話の羅列に過ぎないと思うので、先ず読まない。例外は
田中角栄氏の「列島改造論」と小沢一郎氏の「日本改造計画」だけかもしれぬ。本書も著者のパーティーの土産でもらったものなので、暫く放っておいた。たまたま身体の調子を壊し外出を控えたので、退屈しのぎの意味もあって手にしてみた。

案に相違して非常に読みごたえがある。菅内閣の終わりごろからだったろうか、いきなりTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)なる訳のわからぬ言葉が、マスコミに大きく取り上げられ大騒ぎになった。そこへの参加を巡って賛否両論入り乱れての大騒ぎがしばらく続いたことは記憶に残っている。与党の中ですら、総理が何処かでオバマ大統領に会う時に、参加表明するとかさせないで昨年末は大騒ぎをしていた筈だ。

あれから半年近くなってしまったせいか、TPPに対する関心を持っている人はどのくらいいるのだろう。書店に行けば反対派の旗頭中野剛志さんの本は相変わらず平積みになっているが、読んでみる気にならなかった。所詮は貿易の自由化に関する事柄で、得する人がいれば損する人もいるのだろう。どっちにしてもあっしには関係のないことの筈だった。

しかしこの本を読んでわかったのは、そんなに簡単に済ませる問題ではないとう言う事である。そもそもこの問題に火をつけたのがアメリカ政府、オバマ大統領かもしれない。かの国の経済(政策)がまずくて失業率の改善が見られないことから、今年の年末に控える大統領選の経済政策の一環で苦し紛れに打ち出されたもので、日本の為になろうがなるまいが、米国にとって美味しい匂いがあれば良いと言うことらしい。

そんなオバマ氏の思惑も国内的にさしたる評価は得られず、米国内でも日本の参加を歓迎しない向きが結構あるようだ。そんな事より、この協定に目指すところは関税障壁を低くして自由貿易を促進することより、協定参加国独自の社会や風土を壊しアメリカナイズする事にある。それを第三か平成の開国と受け止めて有難がっている人への警告をしている。

著者は日本に先んじたかのように報道されている、米韓FTAについて現地取材を含め、かなり詳細に問題点を分析している。本書で注目したいのは、この問題を取り上げたことから更に踏み込んで、現代では絶対的『善』とされている自由貿易、即ち開国に疑問を呈している事だ。明治維新、敗戦に次いでこの問題を第三の開国と言われそうかなと思っていた。

著者はそれが間違っている事を指摘する、日本は古くは平安時代、鎌倉時代、江戸時代と開国と鎖国を繰り返して、独自の社会風土、文化を築いて来た。
そこに思いを致すと、随分違ったものが見えてくる気がする。

5 件のコメント:

山猫軒 さんのコメント...

ユーロの失敗が物語っています。格差がある国同士が様々な壁を取り払って同じようにやろうとしても、益々格差が大きくなり、持てるものの所に富は流れていきます。それに、言葉、歴史、文化が違う国は価値観も違うから上手くいかない。グローバリゼーション=アメリカ(小泉、竹中がやった)は国を滅ぼしますね。

Don Koba さんのコメント...

世界を見ると、自由貿易協定(FTA)を最も積極的に推進している国は、チリ、メキシコ、韓国等、決して経済的強国とは言えない。推進していく過程の中で、なぜか国内産業の競争力がついてくる現象が見られる。北欧諸国は長年、一人当たりGDPでは日本をしのぐ。シンガポールも開放経済政策を続けてきた結果、独立した頃のアジアの貧困国が、今や一人当りGDPで日本をはるかに上回っている。日本の農家の平均年齢は65歳を上回っている。いつまで、米を作り続けることができるのだろうか。カリフォルニア米は10分の1の値段で、品種改良して遜色はない。しかし、日本の米は高くてもアジアの富裕層は競って買っている。メキシコマンゴーは、現地では1ドルもしない。なぜか1個2千円もする宮崎のマンゴーは店頭に並んでいるし、アジアにも輸できる。貿易により世界市場を相手にすれば、全く新しい市場が開拓できる。日本の工業製品は関税がゼロに近い。TPP前交渉でアメリカの自動車業界は日本の非関税障壁を馬鹿の一つ覚えのように主張しているらしい。こういう程度の低い連中と交渉することは骨が折れるが、日本側の情報分析能力もこれまでのFTA交渉を通じ格段に向上しているはずだ。最も、認識が低いのはTPPに反対している政治家なのかも知れない。

senkawa爺 さんのコメント...

山猫軒さん
いつもありがとうございます。
貴兄の後でコメントを寄せて頂いたDon Kobaさんがご指摘のように、自由貿易で広い世界に障壁がなくなり物流が活性化することで、経済的効果は高いのかもしれません。
しかし、コストと効率だけを追求していくと、遠い国からでも安い物をどんどん入り、結果的には1000年以上の歴史を持つ我が国の風土や文化は無くなっていくでしょう。
日本のアイデンティティーが失われてしまうことは、国が亡ぶことに他ならないように思います。

Don Kobaさん
いつもありがとうございます。
山猫軒さんと正反対のご意見で有難く存じます。
貴兄のように広い世界をご存知の方からご覧になると、TPP反対論者は時代遅れに見えるのかもしれません。そもそもTPPが出てくる所以は経済の問題にあると思います。加盟国にとっての経済的メリット、デメリットを比べればどこにとってもメリットの方が多いに違いないように思います。
私は経済と言いうものを正確に理解できないのでしょう。どうもGDPの意味もよくわかりません。一人当たりGDPが高い国は低い国に比べて仕事がいっぱいあって、国民は皆よく働き、それなりの収入もあって豊かに暮らせることかと思います。
それは結構だと思います。しかし私は何度も書いてきましたが、もう少し貧乏でもあまりぎすぎすしない社会と言うのも有りかと思っています。
この本に書いてあるのですが、江戸末期に来日した欧米人が何人も書き残しているようです。「日本人は清潔で、子供を大事にする。こんなに子供の笑顔が多い国は見たことが無い。また日本人は怠け者かもしれない、ちょっと仕事をするとすぐに休んで談笑したり、2日働いたら祭りに興じたりする。」
この最後のくだりに共感を覚えてたしまったようなものです。

山猫軒 さんのコメント...

経済(金)の側から考えればDon Kobaさんのいう通りかも知れませんね。しかし、爺さんのおっしゃる最後のくだりににはボクも共感を覚えます。
コストと効率だけではなく多少の不便、貧しさがあろうとも、心豊かでありたいと思います。

Don Koba さんのコメント...

爺さんが、最後のくだりに共感を覚える気持ちよーく分かります。私も同感だから。一つは歳をとったせいもあり、激しい競争社会にうんざりしているから。でも、北欧諸国やオランダの児童がなぜ、「幸福」だと実感でき、日本の子供が実感できないのだろうか。国内市場が小さい北欧諸国の企業は文字通り世界企業として収益を上げており、雇用機会も提供している。例えば、家具のIkeyaは北海道から沖縄まで販売店を置く方針とか。Lego等も、売上の9割以上は海外市場。しかも福祉国家としても長年世界のトップ。学校教育も生徒の考える力を重視。親と子供の触れ合い時間も日本と比べ圧倒的に長い。通勤時間は自転車で通える距離。これは、彼らが知恵を働かせ、いたずらな都市化を避けてきたからなのでは?
国民幸福度を政策とするブータンのような仏教思想を中心とした質素な生活に戻ることは日本人にはもう難しいよね。悩ましい選択だね。