2011年11月26日土曜日

読後感「ファイナル クラッシュ」石角完爾 著 朝日新聞出版

経済問題は難しくて、書かれたものを読んでも理解不能なので、あまり読まない事にしている。まして景気の先行きや経済動向に関する警告めいたタイトルを見ると、長期天気予報を聞く思いで手に取るのも嫌な事だ。しかしある書評でこの本が2007年に書かれたものであるにもかかわらず、その後に起きたリーマンショックから始まって、今日の欧米の金融危機を見事に言い当てていいる、と持ち上げられていたのでつい買ってしまった。著者の名前も知らなかったのも幸いした事だろう。

著者の略歴が面白い。京都大学から通産省に入省して途中下車、国際弁護士資格を取って現在スウェーデンに在住、ここまでは余り驚かないが、2007年にユダヤ教に改宗してユダヤ人となっているのには少し驚いた。国籍がどこであるかは未確認、少なくともイスラエル人にはなっていないようだ。先に<この本が2007年に書かれたもの>と書いたが、実は種本がある。そのタイトルが「The Final Crash」で著者は英国人のファンドマネージャーH.B.氏であり、石角さんが原著者の了解のもとで、冒頭に内容を紹介している。

07年時点でリーマンショックから始まる現在の金融危機を言い当てたのは、種本の著者である。彼が言わんとしているのは極めて単純、欧米や日本の財政悪化と中国のインフレがどこかで行き詰まり、世界経済がメルトダウンを始める。日本においても国内金融機関が買い続けている日本国債も暴落するのは明らか。この日はそんなに遠くはない。要約すればこんなことになる。因果関係も順序だって書かれているが、小難しいのでよく分からない。

著者はその警告を踏まえ、日本だけでないだろうが、消費礼賛文化の見直しを提起している。日本を例にとれば、一例として貯蓄が1970年代には20%超だったのに、現代2%=収入の50分の1になっている。一方これがGDPを押し上げてきた意味もあるのだろうが、果たして日本人がどれだけ幸せになったと言えるだろうか。初版は8月に出ているが、ブータンの国民総幸福度などにも触れている。

他にはユダヤ人らしいと言えばイスラムの金融システムにも触れている。これは初めて知ったので書いておく。「イスラムの金融では金利を取らない。銀行は金利を取ってお金を貸さず、投資家として借り手の投資に参加する立場をとる。一般的な投資では、借り手の投資が失敗した場合でも貸し手の債権は生きており、破産した借り手の担保を取り上げるなど容赦ない取り立てが行われる。イスラム金融では銀行もまた投資の仲間として、借り手と同様のリスクと損害を受ける。」

何でもリーマンショックの際、イスラムの金融機関は殆ど被害が無かったらしい。こちらは金融機関を選ばなくてはならぬほどの資産が無いので、クラッシュに備えての資産管理については興味が無い。ただ他にも、ワーク・ライフのバランス地域コミュニティーの在り方など、これからのライフスタイルを考えるときには参考となりそうなことが沢山書かれている。結論的には、資産の無い人のクラッシュ対策は一言で言えば「手に職を」だ。経済関係の本としてではなく、一読の価値はあるかも。

0 件のコメント: