2011年4月12日火曜日

読後感「随感録」浜口雄幸著

城山三郎の作品『男子の本懐』で有名な昭和初期の政党政治家。立憲民政党総裁・総理大臣として第1次大戦後の内政外交共に多端な時代に、建艦競争の歯止めをかける軍縮を成功に導き、外交的には世界平和の樹立、国内的には国民負担の軽減二つを樹立せしめた功績は大きい筈。しかし、これに対して軍部、特に海軍は戦が出来ないと大きく反発、きっと世論も大きく揺れたに違いない。

世界的な軍縮については各国の事情もあり紆余曲折はあったろうが、結局昭和5年10月初旬には日本もロンドンの海軍軍縮協定を批准するに至り、10月27日イギリス外務省における批准書寄託式の挙行に合わせ、米英日の大統領と首相が同時刻にラジオ放送を行う事で大団円を迎える事が出来た。浜口首相も一安心であったに違いない。しかしその直後11月14日東京駅でテロに遭遇、腹部に銃弾を受ける。その場では一命を取りとめるが、本復する事が出来ず翌年8月に亡くなった翌年の総理大臣浜口雄幸氏の遺稿集である。

東京大学法学部を卒業して大蔵省に入省、次官に迄登りつめた高級官僚であった人が、後藤新平氏の強い勧めで政治の道に入った理由なども綴られていて面白い。内容的にはタイトルの通り多岐にわたっている。著者自身が「随感録とは読んで字の如く感想の湧くままに従って書きつけるのであるから、何ら特別の目的はないが、題目を選ぶ時は主として修学時代の学生の精神修養上の参考の一端ともなろうと思われるものを選んでいるつもり。」と語っている。

学生時代に抱いた思い、役人から政治家になるきっかけとなる人間との出会い、政治家としての基本と考え苦手な演説をものした事、日本と世界平和を志し、その達成のために乗り越えねばならなかった様々な障害等々。修学時代からは大分年月が経ってしまったが、大いに精神修養上の参考になった。中でも印象的なのは「趣味道楽」と「読書」についてである。彼は自らの本分と信じる事にのみ専念して一切の趣味道楽をしなかったらしい。

大正から昭和の初めと言えば、日本が最も華やいだ時代である。にも拘らず、国家国民の安寧だけに専念した政治家が存在したとは何と羨ましい事だろう。また、読書についても「書を読まざるの説」なる項目を立てて多読を戒め、良書を精読する事を薦めている。昔の人は日本語に対する基本が異なるのだろう。漢文の素養はかなり高いし、文章もかなりしっかりして現代の政治家の本なんか比べ物にならない。

世情騒然として本を読む気も起きなかったが、久方振りに良書に巡り合った。但し、乱読を戒められ恥ずかしい限りだ。


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