読後感 「アメリカとともに沈みゆく自由世界 」カレル・ヴァン・ウォルフレン著・井上実訳

20年前に出版された「日本権力構造の謎」以来久し振りに著者の本を読んだ。前回も、外国人でありながら日本の核心に迫った観察の鋭さは驚異的で、今でも深く印象に残っている。今回はアメリカが主たるテーマにはなっているが、日本人に対する多くの示唆的メッセージが込められている。著者は1941年生まれのオランダ人ジャーナリストで、アジアをメインに各地を取材して多くの賞を受賞している。学者ではないようだが、本書においてもそうだが、社会学的造詣の深さとアプローチについては日本のどんな先生も及ばない。

1999年の冷戦終結以降世界の構造が大きく変わり、これまで欺瞞をもって国民を抑え込んできた社会主義国家のソヴィエトが崩壊した。これで世界に自由主義が広まり平和が訪れれば問題無かった筈だが、現実はそうなっていない。特に自由で民主主義国、平和の守護神である筈のアメリカが世界中に戦争の災厄をまきちらし、各地で無辜の民を殺傷している現実にがある。何故か、著者はそこを冷静に解析していく。

アメリカには産軍共同の萌芽がかなり以前から存在していた事実もある。しかし、今世紀に入って直ぐの世界貿易センター事件を契機に、ブッシュ大統領がこれを「我が国に仕掛けられた戦争」と位置付け、対象を「テロ集団」として「テロとの戦争」を始めた。これで国内は一気に結束して、アフガニスタンに戦争を仕掛ける事(日本もすぐ同調)に反対するものは悪人とする雰囲気を作り上げたしまった。引き続いて反テロ対策の対象として北朝鮮、イラン、イラクの3か国を名指し、これらの国を「悪の枢軸 」と総称して批判、その後イラクには無い所に柄を付けて戦争を仕掛けてしまった。

この経緯を冷静に分析すると、論理的に破綻しているのは言う迄もない。要するにテロは犯罪であって、あくまでも個人的に罰せられるべきもの。戦争とは政治主体である国家と国家の紛争で、性質がまるで異なる。何処かの国をぶっ潰してテロが無くなる筈はない。目線がまるで違う方向に向いているのに、暫くの間少なくとも国内からは非難されなかった。その間アメリカでは戦争がビジネスに大きく貢献、国民の犠牲が増える一方でとんでもない少数の富裕層が出現している。

8年の時を経て、国民もおかしい事に気が付きオバマを選んだが、事態は全く変わっていない。オバマ自身はノーベル平和賞まで授賞しているが、世界中に戦争をまきちらす構造に何の変化もなく、貧富の格差拡大は続いている。どこが狂ってしまったのか、著者に言わせると、もう政治ではどうにもならないところに来てしまっているのだそうだ。従って著者は解決策については言及していない。日米の関係についても少し言及があるが、小生がいつも書いている通り「明かなアメリカ属国」と断定しているが、喜んでいいのか戸惑っている。

最後に日本にある「本音と建前」を引き合いに、世界中のリーダー層(政治家・学者・ジャーナリスト)が使うレトリック上の欺瞞について警鐘を鳴らし、依って来たる所を読者に考えてほしいと言っている。

今年読んだ書物の中で最も感銘を受けたと言える。



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