読後感「暗号名ゴースト」アレックス・ベレンスン著 棚橋志行 訳

予め知って読んだわけではないが、現在日本政府が巻き込まれている対中国との尖閣を巡る領土問題を暗示するようなスパイ小説である。米国での出版は2008年、流石に彼の国のジャーナリスト出身の作家はグローバルな視野では我が国のそれを遥かに凌ぐものがある。

話しは今日の国際情勢を反映して大変複雑に構成されているが、骨格は米中の潜在的対立軸である。主役はスパイではなくCIA職員だが、彼が長年米国が温めてきた中国政府高官のスパイを際どい所で救出する話になっている。その事は脇において、ここで描かれる米中対立の背景が昨今の事情に酷似しているように思われる事が興味深い。

現在でも中国の覇権主義が良く言われる事だが、中国政府の意思決定機関とそのプロセスは我が国や他国にとっても良く分からないのが真相だろう。この著書では、政府高官が居住する中南海のある会議室で定期的に行われる9人のメンバーからなる常務委員会が最高意思決定機関としている。当然この中には軍部を代表する将軍も入っているが、ナンバーワンではない。むしろ老齢のナンバーワンを側近として補佐しているのはナンバーツーの文官で、彼は現在の改革開放路線を積極的に推進している。

問題は現在の中国が改革開放路線の結果貧富の格差が生じ、各地でデモは頻発し13億の国民のコントロールに困難が生じている事にある。将軍はこの事態を憂慮する意味もあるが、常務委員会内部の権力闘争の意味もあり、アメリカに対して軍事的緊張を高める動きを画策する。ここが今日尖閣を巡って激しく動いた日中の駆け引きを髣髴させる場面で、先ずアメリカ海軍が黄海において中国のトロール漁船を引っ掛けて沈没させてしまう。と対抗した中国が潜水艦でその軍艦に対して攻撃を加えて甚大な被害を与える。

あわや大戦の寸前まで行くのだが、主人公の活躍で中国側将軍の秘密の画策が露見する結果になって将軍が失脚する事で事無きに至る筋書き、これを補完するために北朝鮮からイラン迄各国の軍事戦略・諜報に関する事柄が複雑に織り合わされていく。要するにアメリカも国内に様々な難問とイラク・アフガンと難しい国際問題を抱えながら、一寸油断した訳でもないだろうが、中国という大国との向き合い方が非常に難しくなっている事を暗示している訳だ。

小説ではあるが、多く示唆を含む面白い読み物。下らないと言わずに一読を是非お薦めしたい。

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