この戦争を日本では「ノモンハン事件」と言い、「ノモンハン戦争」とは言わない。1939年5月から9月に亘り当時の満州国とモンゴル人民共和国が正規の軍隊(実態的には日本軍・満州国軍VSモンゴル人民軍・ソ連赤軍連合軍)を出動させて双方共に2万人前後の戦死傷者を出しているにも拘らずである。何故かと言えば双方が宣戦布告無しに言わば非公式な戦であったからだそうだ。戦争であれば勝ち負けもはっきりする必要があるが、事件としてずっとうやむやにされている。しかし日本軍が外国領土に深く侵攻して大量の戦死者や捕虜を残して撤退した事実は歴然としている。
著者は言語学とモンゴル学を専門とする学者で1936年生まれとあるから相当なご高齢である。、現在出版されているノモンハン事件関連の図書の殆どが軍事研究で、単に殺人技術の成果や仮定を論じ合うのに辟易していたようだ。彼は1991年東京で開催された日本、ソ連、モンゴルの参戦3カ国の代表が参加した「ノモンハン・ハルハ河戦争国際学術シンポジューム」でモンゴルの代表が行った報告「あの戦争は避ける事が出来たかもしれない」を聞いて感銘を受け、戦争を避ける研究であるなら自分にもできるかもしれないとして本書の執筆を思い立ったと書いている。
以来、専門的な研究を深めるために現地はもちろん生き残りの証言を取材するなど精力的な活動をされたようだが、半世紀以上の年月の溝は埋め難く悔しい思いもされているようだ。私はモンゴルと言えば朝青竜などの力士の故郷で、草原に馬を走らせる些か牧歌的な国ぐらいの印象しか持っていない。満州なる国家についての知識は、先の大戦前日本が中国北東部にでっち上げた傀儡国家で、日本人で移住した人が随分悲惨な目にあったようだ、と言ったくらいのところで正直殆ど何も分かっていない。
本書を読んだ後でも大して知識が増えたとは言い難いだろうが、日本に於いて新政権が誕生した事もあり、外交問題特に近隣諸国との関係を少し真面目に考える必要性一層深くした。日本はかつて政治家のだれかが言って物議をかもした様に「単一民族」意識が濃厚である。外国人という言葉も日本独特のものだろうし、その外国に併合された事も占領された事も或いは分断された事もないと思っている。
しかし考えてみると日本人は「満州」という多民族国家(1945年当時人口5000万人とも言われる)をつくり、それを極めて短い時間でぶっ壊してしまった訳でもある。ここに移住した日本人が大変な思いをしたと書いたが、満州国の全国民がどんな思いをしたかと言う事についてどれほどの日本人が思いを致しているのだろう。本書はそのうちの一部モンゴル人中心に書かれているのだが、20世紀初頭広大なアジア東北部で主に遊牧生活をしていたモンゴル人(多様な種族)達が周辺の大国によって引き裂かれて行く中でそれこそ悲惨な歴史をつづって現在に至っているらしい事を初めて知った。
何れにせよ戦争がどのように起きて、それについては誰に責任があったのか。歴史の過ちを繰り返さないためには、そこをはっきりさせることが必要であろう。著者の思いが良く理解出来る。
2 件のコメント:
ノモンハン事件は近代的なソ連軍をなめてかかった日本軍の大敗だったのですが、その事実を隠すため参加した将校たちは過酷な運命をたどったと聞いたことがあります。結局敗戦の教訓はその後生かされなかったのですね。
最近・・それでも日本人は「戦争」を選んだ・・・という本が話題になっています。(右翼陣営からは攻撃さているようですが)いささか虫がいいお願いですが、あなたが読んでみていただけませんか?それでいい本のようでしたら、私も購入し身内にも何冊か贈ってやろうと思いますが・・・
takさん
コメントを見落としておりました。申し訳ありません。
近日中にお薦めの本を読んでみようと思います。
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