2010年2月17日水曜日

日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書) 孫崎 享 (著)

日本は半分アメリカの属国と思っていたが、この本を読んでその感を一層深くした。著者は元外務省の高級官僚、国際情報局長を経て昨年3月末まで防衛大学校教授をしている。若い時から欧米の他にソ連圏や中東など数多い大使館勤務があり、駐ウズベキスタン大使と駐イラン大使もしている。東大中退で外務省に入省とあるから典型的な秀才だろう。国際情報局は2度、分析課長と局長を歴任しているが課長時代の上司局長が時々マスコミに顔を出す岡崎冬彦氏との事。孫崎氏は後書きで自らを鳩、岡崎氏を鷹になぞらえて述べているが、岡崎氏の論調とはいわば正反対である。

国会でも安全保障問題は国家の根本問題としていつも大きな話題となっている。最近も普天間基地の移設問題なんぞは鳩山政権の命運がかかった問題と言っても過言ではあるまい。私もこの問題についてインターネットのブログを読んでいる中でこの本を知った次第である。外交問題なんぞは全て条約とか法律で規定される事なので、素人にはとても手に負えるものではないという思い込みがあった。しかしこの本は日本と米国がどのような関係にあるかについて、実に分かりやすく平易に解説してくれる。

「日米同盟」と一口に言ってもその意味するところ(あるいは解釈または受け止め)が、最近特に彼我の間で大きな開きがある事を指摘している。日本人の殆どすべての人が今年50年の節目を迎えた「日米安全保障条約」なるもので「日米同盟」が担保されていると思っているに違いない。小生はその典型で内容はよく知らないが、核の傘とか駐留米軍等がその具体策で、このお陰で日本の防衛予算は少ない割に長年平和を享受してきたと思っていた。本書は冒頭に「日米安全保障条は終わっている」なる刺激的なタイトルを出している。即ち2005年10月29日日本の外務大臣と防衛庁長官と米国の国務長官と国防長官が「日米同盟:未来のための変革と再編」に署名した事によって、日本が果たすべき役割が劇的に変わった。

それまで日本は専守防衛で極東の安全だけに意を用いていれば済んだが、この時から世界の平和と安全のためにアメリカと共に対象範囲を全世界に拡大してしまった。この変化に関して日本はどれほどの議論をしたであろうか?インターネットではこの文書の正本は英語のみで日本語の正本は存在しないとされている。当時の町村外務大臣と大野防衛庁長官はこの文書の意味を理解したのであろうか?米国は何も唐突にイラクに兵を出せと言ってきている訳ではない。ちゃんと順序を踏んでいるようだ。日米安全保障条約締結当時から後藤田正晴さん存命の頃までは、自民党の幹部もこの条約で日本の自衛隊が戦争に巻き込まれる事に非常に強く警戒していたようだ。如何に最近の日本の政治家の質が低いかを物語っている。

この本によれば1960年条約の締結当時と現在までには地球上の国家間バランスに様々な変化があり、特に冷戦終結後米国はゴルバチョフがとった変化に対応して国家戦略を大きく変化させてきている。ところがわが日本はもともと戦略概念の乏しい国だったので、同盟国の戦略変化についての認識が薄い。ただ対米追従さえしていれば安泰みたいな完全に安全保障音痴になっている。米国に於いてはブッシュ(父)、クリントン、ブッシュ、オバマと党派を超えて大統領が代わっても、世界で1強の立場を維持し続ける世界戦略に大きな変化は無いようである。我が国はこれに追随するだけで良いのか、もっと自主的に戦略的見地から安全保障問題を考え直さなければいけない(具体的にはもっとNATOに寄りこれを見習え)と警鐘乱打しているのである。

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