2009年12月7日月曜日

「世界史の中から考える」 高坂正堯 著

著者が1996年に亡くなってから上梓された短編の随筆集である。著者の弟子とされる中西輝政など最近の政治評論家の本は読んで面白いものに当たったためしがないが、これは久しぶりに面白かった。

歴史的に見ると、我が国では民主主義の手本とされている英国ですら現在においても尚、民主主義の建前と本音のせめぎあえはかなり存在するようでもあり、ましてや現在に至るまでの道のりに於いてはかなりの腐敗政治の道のりがあったようである。米国人の建前と本音も面白いし、ヨーロッパについては日本では忘れられているがバルカン半島の国々が如何に政治的に難しいかを指摘している。

外国の例はさておき、我が国の近代政治に於いても少し変わった角度から歴史を見る事を教えてくれる。例えば一般的に高い評価を得ている外交官の陸奥宗光や海軍の米内光政についても肝心な時に判断ミスをしている事を指摘しているし、江戸時代悪代官の代名詞とされた田沼意次については山本周五郎の小説を引き合いに出して、政治の理想と現実の調和がいかに難しいかを説いているように思われる。

現在の政治のごたごたを毎日見聞きしても、正確な情報に基づかないものが多くつまらないが、15年以上前に書かれている事を今読んでみると成程と思う事が多い。この本を読むと政党による民主政治なるものは非常に困難なもので、国民世論はどうしても情緒に流されやすいし、政治家はもこれを無視する事は出来ない。従って理性的な大政治家と言う存在自体が、この世には存在しえないものであるような気になる。

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