2009年10月30日金曜日

「燃えよ剣」 司馬遼太郎 著 

新撰組の土方歳三が現代の若い人に人気がある、と聞いた。何処に人気の秘密があるのか知りたくて読んでみた。結局秘密は発見できなかった。子供の頃から秀吉が良い奴で家康は悪い奴、新撰組は明治維新に抵抗した勢力の象徴と刷り込まれているせいか初めから好印象を持っていない。

作者が司馬遼太郎氏だから史実はかなり丁寧に調査の上書かれたのだろう。幕末の社会的な動乱の様子が伺えるし大変面白い。外的な要因にせよ世の中の価値観が大きく変わるような時は、どうしても従来の社会秩序に寄ろうとする人と、環境の変化に乗って新しい体制を作り一旗揚げようとする陣営の間に大きな摩擦が生じて社会が混乱するのは仕方がない。

江戸の末期はその大混乱に当たるのは間違いない。そしてこの混乱に乗じて一旗揚げたのが正に新撰組の近藤勇と主人公土方と言える。東京都下当時で言えば田舎の悪ガキがこの混乱で武士、しかも最終的には徳川幕府の大名格にまで出世してしまうのだ。 しかしこの混乱も最終的には血で血を洗う戦争であり、彼らが頼った徳川幕府は西国の諸藩に負けてしまう。

この小説では主人公土方はこの騒乱を単に西国諸藩悪ガキとの大喧嘩としてしか見ていなかった事になっている。 近藤の方は最初は兎も角、最後には道理らしきことも少し考えようとしたように書かれているが、土方は最初から最後まで剣で勝てるか勝てないかだけである。実際はそんな無思想ではないだろうが、そのように思えるほど人を殺しまくったと言う事だろう。

現代においてもそうだが、思想の違う人間を説得できないとすぐに力を頼んで暴力的手段に訴える輩が居る。現代では暴力団を使うとか軍隊を使うと言う訳だ。主人公土方は思想道理を置いて使われた口で、その使用者には忠実且つ戦には滅法強かったのも事実だろう。 若者に人気があるのは、武士としての潔さにあると聞くがとても同感出来ない。力が強くて道理が分からないほど厄介な奴はいない。最後に近藤が勤王に反するのは如何、と逡巡する場面がでてくる。司馬氏も新撰組を単純に美化するのは気が引けたのだはなかろうか?

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