2009年10月22日木曜日

「青雲はるかに」 宮城谷 昌光 著

中国の歴史小説と言えばもっぱら陳舜臣氏のものだけで宮城谷氏の小説は初めてである。舞台は戦国時代、秦の昭襄王の宰相となった范雎(この字を探すだけでも大変)と言う人物が主人公。

范雎は魏の市井に生まれたありふれた青年ながら大志をもっていた。当時も一般市民が官人として栄達を志すのは並みの事ではない。艱難辛苦の結果やっと30歳位で魏に於いて官僚の端に辿り着くが、それでも大きな志を捨てなかったばかりに、主人と他国を旅行中に他国の高官と面会した事をスパイ行為と疑われ、主人の主人(魏の宰相)から半殺し以上の仕打ちを受け厠に捨てられる。

しかし幸運にも助ける人が居て、魏のお尋ね者として苦労を重ねながら10数年後に秦国に辿り着き昭襄王の目に留まる事になる。この間至る所に范雎を助ける義侠心をもつ友人、又その脇にいろいろな形で女性が絡んでくる。恋愛小説と講談本をない交ぜにしたようなものだ。秦の宰相となってからもめでたしめでたしとはならず、王朝の複雑な派閥争いの中で苦労するのは現代の政争を髣髴とさせたり賑やかな事である。

秦に於いて最高の権力者となった主人公は、最初は戦えば必ず勝ち最後に自分を貶めた昔の主人とひどい仕打ちをした魏の宰相の首は取るのだが、自分も又最晩年はやる事がことごとく裏目に出て連敗を喫し嘗ての自分のような男に権力者の座を追われる事になる。

彼の名前と、この小説の骨格(魏の宰相に些細の罪を問われて追放されたが秦国の宰相になって仇を打った)は「史記」や「戦国策」に記述があるそうなので全くのフィクションではないようだ。それにしても日本の戦国時代をさかのぼる事更に1000年の昔、しかも黄河と揚子江に挟まれた広大な地域に存在する7つの王国の広がりや人物を上手くイメージできないので読むのに少し疲れる。

史書に如何ほどの記述があるのか分からないが、ほんの数行のものだろう。そこからこれだけの作品を書かれる作者の宮城谷氏の能力には、ものすごく勉強をされているのだろうと感嘆するしか無い。併せて中国の古代史には学ぶべきものが多く、昔の日本人がこれを学ぶのを学問の基礎とした事も尤もだ。

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