2009年8月3日月曜日

山と渓谷 田部重治著

山岳紀行を時々読むが田部重治さんという方を知らなかった。明治末から大正にかけてスポーツ又はレジャーとしての山岳なんて事は本当に一部の人しか行わなかった時代の話だ。しかし100年近くの昔でも山に憧れる若い人は居た訳だ。その気持ち情熱が熱く伝わってくる。

幸い日本には山岳登山に適した山々が沢山あった。おそらく著者はあの深田久弥氏(深田氏より10歳近く先輩のようだ)と同様日本中の山々を登り歩いた事だろう。しかしこの本に収められている紀行の殆どは北アルプスと多摩奥秩父と自分にも馴染みの地域であるのが一層の興を誘った。

観たいと思いながら未だ果たさずにいる映画「剣岳」もきっとそうだろうが、まだ5万分の一の地図さえ未踏地が沢山ある時代、昔の人は兎に角偉い。足袋と脚絆に草鞋を履いて、雪渓は更にその上に輪かんじきを履く。持ち物は天幕と毛布、脂紙と着茣蓙が今でいる雨合羽。リュックサックには米やら味噌を背負い、腰には草鞋や飯盒をぶら下げた乞食みたいな恰好だったのだろう。

しかも一度山に入ると道を探しながら登ったり降ったりを繰り返し、軽く1週間ぐらいは歩き続ける。勿論殆どが野外での野宿同然である。燃料や水の補給を考える流木に恵まれる渓谷での泊まりが多いようだ。ある時は秩父で早春の沢登りをして、遂に今で言う低体温症の遭難で人事不省となったりしている。

同時に感嘆するのは当時の山案内人凄さである。勿論本業は猟師であったり、単なる樵かも知れない。現代にも「喜作新道」とか「長次郎坂」地名に名を残すような人の超人的な働きの一端をうかがう事も出来る。夢やロマンに満ちてはいるが、正に手に汗を握る大冒険物語である。

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