2020年4月18日土曜日

読後感「ペスト」アルベール・カミュ著 宮崎嶺雄訳

純文学には縁遠いが、一種の流行に乗って読んでみた。出版されたのが1947年だからだいぶ昔の小説だが、現在流行っているのは小説の舞台がロックダウンされた都市であることにある。著者はこの出版の10年後1957年にノーベル文学賞を44歳の若さで受賞している。更に言えばその翌々年には不慮の死で世を去ったことを思うと実に残念なことだ。純文学と言うと小難しく思うが、不純な動機で読んでも実に読み安い構成であり、文章は流石ノーベル賞作家と感心するほど鮮やかな言葉で綴られ映画を観るように印象的だ。

舞台は著者の故郷アルジェリア(フランス領)の実在都市アラン、この町が1940年代のある年にペストが流行りロックダウンされてしまう。アルジェリアについて知るところは少ないが、読み進むと何となく北アフリカの情緒が伝わってくる。フランスの植民地だけに結構近代的な都市のようで、港や飛行場も汽車も通っているからそれなりの人口を持つ大都市を勝手に想像しながら読んだ。もちろん北アフリカの諸都市については行ったこともないから勝手に想像するだけだが、昔の映画「カサブランカ」はスペイン領のモロッコが舞台だが、これと何となく重なるイメージで読んだ。

何故ならアランには歌劇場もあればサッカースタジアムも存在する。一方でモノクロームなイメージに陥るのは何千何万と言うネズミの群れが狂言回しに登場することにある。早い話が荷馬車と自動車が混在していた終戦直後の故郷長野市を思いながら読み進めた。肝心の登場人物はアランに住まいする多くの市民、得体の知れない人物が複数登場するが、フランスから来ている新聞記者もいれば、牧師や判事もいるし、犯罪者も登場する。中でも主役は医師のリュウ氏、別に医師会の大物でもなさそうだが終始ペスト患者の治療にあたっている。

ペストなる疫病も想像するしか無いが、新型コロナウィルス肺炎と思って読めば鮮やかにイメージが整合する。都市のロックダウンが突如始まり、ほぼ1年に亘って継続する中で死者が増え続け、埋葬も間に合わ亡くなって、遺体を棺に収めず土葬していくシーンなんかは現代のニューヨークを彷彿させる。著者は全く異なる立場の人物を登場させることで、人間の根源的合理性とか非合理性を表現するのが主眼だったようで、社会に存在することが居心地良い人にせよ、逆に社会から少し距離を取りたい人であっても、全く非合理な同じ環境下に置かれたらこうなるだろうと言いたいようだ。

そのへんになると哲学的すぎて些か難しいことになるが、それは省略して、70年以上前にアフリカを舞台に書かれた小説の内容が今世界で起こっている騒ぎに余りに似すぎていることに驚いてしまった。

*余事ながら最も印象的だった一文*
「最も救いのない悪徳とは、自らすべてを知っていると信じ、そこで 自ら人を 殺す権利を認めるような無知の、悪徳にほかならぬのである。」

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