2020年3月15日日曜日

読後感「ザ・フォックス」
フレデリック・フォーサイス著 
黒原 敏行 翻訳

書店でぼんやり眺めている時、若い頃著者の作品を立て続けに読んだ記憶が蘇って新作のこの本に目が止まった。内容は省略するが、主人公は英国の元諜報関係のトップ、と彼が目をつけた天才ハッカーの活躍。随分近代的テーマを選んだものだ。事前の調査力は昔から優れたものを感じていたが、80歳を超えた老人には少し難しすぎるテーマであったかもしれぬ。そこそこの長編小説には仕立てられているものの、増量剤に多めの小麦粉混ぜて打った蕎麦のような感じで、少し単調に過ぎた。

先週半ば朝日新聞デジタル版に、一昨年500億円を超す盗難にあった仮想通貨NEMを、盗難品と知りながら現金化していた青年が逮捕されたとの記事が掲載された。その逮捕直前に朝日の記者が、この青年に何度かインタビューをしている。そこで青年が語った話の方が小説より遥かに緊迫感があって面白い。最初に貶してしまって申し訳ないと思う。しかし80歳を過ぎてこのテーマに挑戦した心意気は敬服に値するし、話の組み立ても時宜を得ている。

小説なかで展開される天才青年と超巨大国の戦いは、間もなく現実になるのではないだろうか。現代のコンピュータ機能はAIとかビッグデータをどのように駆使しているか、著者と同世代の日本人ファンの一人として想像すら難しい。これが中国の理科系に強い若者だったら、少し違ってくるだろ。例えば、この部分までは現実的、或いは近未来で可能性がある。とか、テクニカルな描写についても、もう少し書き込んでも良いのではとか言えるかもしれなし、それなりに面白く読めるだろう。

まるきり空想だとすればつまらぬし、かと言ってどこまでがリアルなのかが判然としないのが残念だった。いや、それが作者の狙い、才能がある証拠かな。著者の筆力に衰えが感じられなかったとして締めくくりたい。

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