2020年2月29日土曜日

読後感「ザ・ボーダー(上下)」
ドン ウィンズロウ 著, 田口 俊樹 翻訳

凄い読み応えだった。上下巻合わせて1563頁に及ぶ大長編小説。ジャンルは探偵とかミステリーとは言い難いが、主人公はアメリカ麻薬取締局の局長のメキシコ系アメリカ人。対する悪漢はメキシコ麻薬組織(複数)とそれに寄生するアメリカ人。舞台はメキシコが中心で隣国アメリカやグアテマラ迄広がる。当然のことだが登場人物が非常に多い。巻頭に主な登場人物が紹介されているが、数えてみると、それだけで32人に上る。

カタカナで表記される名前は馴染みが薄いので、どっちが苗字でどっちが名前か混乱するのは毎度のことで、男女も時々分からなくなる。そういった苦労を乗り越えて大凡1ヶ月近くかかったと思うが、読破できたのは内容が面白かったからと言える。

アメリカでマリファナが合法化された州はあっても基本的に非合法製品。そしてこの麻薬の種類が想像以上に多く、これが国中に広く蔓延しているのが実態なのかもしれぬ。だからアメリカ麻薬取締局なんて役所があり、職員は1万人を超えている。日本にも捜査権や逮捕権を持つ同様な組織はあるが、規模には大きな違いがあるのだろう。何れにせよ捜査側の規模が大きいということは対象の犯罪者側の規模も大きいことに他ならない。

麻薬の主原料は芥子であり、これは殆ど中米の山岳地帯で違法栽培・加工されて国境を超えてアメリカに運ばれて(密輸されて)来る。もうこれは一大産業であり、アメリカ人が麻薬に支払う金額は一年に6兆円とも言われるそうだ。生産者から末端の売人までカウント可能であれば、従事者の数も半端ではあるまい。メキシコはその中心にあり、その麻薬組織を動かしているグループが複数あって、それぞれ別の州に拠点を構えてしのぎを削ると言えば上品だが、流血の覇権争いをしている。

更に事が複雑になるのは、この非合法組織は金があるので、軍人や警察官を多数抱き込んでいることだ。こういったことはアメリカでも似たようなものらしい。この小説ではアメリカの大統領候補までが麻薬組織に加担することが出現する。日本でも時折麻薬に溺れた芸能人のことがニュースになったりするが、アメリカでの蔓延状況は想像を超えているのかもしれぬ。何れにせよ、どこまでが著者の想像かは分からぬが、まるきり根も葉もない事では無いかもしれない。

アメリカは日本と異なり警察権をもつ司法組織も複数あるし、囮捜査は日本と比較できないほど常態化している筈。何事によらずアメリカの社会的病巣を抉った小説として興味深いものがあった。

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