2018年12月24日月曜日

読後感「恐怖の男」
ボブ・ウッド・ワード著 伏見威蕃訳

アメリカ大統領トランプ氏関連本は何種類か店頭を飾っているが、本書が発行されるまで購入を控えていた。著者は言うまでもなくニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントンポスト紙の元記者、現在も編集主幹を務めている。他の本は何れもトランプ政権内部にいた人が書いていることを思うと、客観性に優れているのではと思ったからだ。

本書がアメリカで発売されたのは今年の9月11日、忽ちベストセラーとなり日本版が発行された時点の1か月後で130万部を売ったとされている。著者は前書きで本書がジャーナリストの基本ルールで作成されたことを強調して「本書は数百時間に及ぶインタビューと会議メモ、個人の日記、政府の文書、個人の書類をもとにしている。但しトランプ大統領は本書のためのインタビューを断った。」と付言している。

誰しも思っているだろうが、トランプ政権は非常に不安定だ。先週末もマティス国防長官の辞任が発表され、マティス氏自身が辞任の弁を発表、大統領が後任人事を決め、引継ぎがスムースに行われるため辞任は2月末にするとした。と思ったら今朝になると大統領がこれを否定、来月早々には辞めてもらう。そもそも彼を国防長官に任命したのが間違いだった。と怒りの会見である。一体アメリカの政権内部はどうなっているのだろうか?

日本のように一枚岩といかないまでも、少し酷すぎるのではと思わない方が不思議だろう。本書はそこのところを見事に説明してくれている。最大の理由はやはり大統領自身の性格にあろう。大統領は彼自身が立てた目標達成のためであれば、嘘をつくことに関して罪悪感を全く持ち合わせず平気で嘘を言う。意思決定に際して最大の判断基準が損得と銭勘定にある。人間関係においても国家間の同盟関係においても裏切りに関して気にすることがない。

何事においても論理的な合理性より最終的には力ずくでも勝つことに意味を見出す。従って軍隊・軍人は重用するが、その戦略的地政学的意味に関する理解は無きに等しい。読むほどに超大国の指導者に相応しくない性格が浮かび上がってきて恐ろしくなる。しかしどうして彼がヒラリー・クリントン女史を抑えて当選できたのだろうか?やはりあのスティーブ・バノンなる映画プロデューサーの戦略が当たってしまったようだ。

現在では彼も首になっているが、投票結果が出る前はトランプ氏自身半信半疑で、政権移行準備は全くしていなかったのも事実らしい。この辺は映画監督マイケル・ムーア氏の見立てと同じだ。来年の世界は相当にヤバいと思うしかない。

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