2018年10月2日火曜日

読後感「アメリカの鏡・日本」
ヘレン・ミラーズ著・伊藤延嗣訳

1か月近く前に高校の同期生に薦められたが、読み終わるのに時間が掛かってしまった。原本は1948年にアメリカで出版され、翌年に日本でも出版の動きが起きたがマッカーサーが「占領中に日本人が読むことは適切でない」として許可しなかったと言ういわくつき。占領が終了した昭和28年にやっと出版されたが何故か注目されなかったようだ。平成7年になって本書の初版が出され、更に20年の月日を経て出版された文庫本を読んだわけである。

先ず著者を紹介しておきたい。ヘレン・ミラーズ女史は1900年(明治33年)ニューヨークの生まれ。女子大卒業後1925年に友人に誘われ北京に1年ほど滞在した後日本を訪れ、この時日本について興味を持ったらしい。帰国後ジャーナリストとして活躍、1935年(昭和10年)再び日本を訪れ226事件が起きる前年の約1年間、日本に於ける庶民の生活習慣や神道に至るまでの実際をフィールドワークし、鬼気迫る日本を体験した。戦争中は日本専門家としてミシガン大学、ノースウエスタン大学などで日本社会について講義していた。1946年に連合国最高司令官総司令部の諮問機関「労働政策11人委員会」のメンバーとして来日、戦後日本の労働基本法の策定にたずさわった。そして1948年「アメリカの鏡・日本」を著す。1989年89歳で没した。

その内容である。明治以降開国によって世界に開かれた日本が、他のアジア諸国のように西欧先進国に植民地化されることなく独立を勝ち取り、一時は大国の仲間入りまで出来たのは何故であるか?著者は偏に日本が真面目に大国の振る舞いを学び、国際法を順守したからに他ならない。しかし住むに土地は少なく、これと言った資源がない日本は外国と貿易する以外に独立を維持するのは困難であった。朝鮮半島から満州に土地を求め、移民政策を推し進めるのは必然でもあった。

それも先進大国によって作られた国際法を順守する形で進められた訳であるが、その地の権益に先着していた西欧諸国との軋轢が生じたのも当然の事。満州事変当時から欧米では何れ日本とは戦争になると予想はされていた。確かに日本は中国で中国軍と戦ったわけではない、フィリピンでフィリピン人と戦ったわけでもない、インドシナでインドシナ人と戦ったわけでもない。蒋介石は中国人ではあったが、中国を代表する国軍ではなくアメリカのために戦っていたとの見方が出来る。第2次世界大戦はパールハーバーの奇襲で日本と米英欄との間で始まったとする考え方はおかしい。実際は満州事変当時から始まっていた。等々

複雑すぎて簡単には要約できないが、本書には「法的擬制」と言う言葉が頻繁に登場する。先進国が使うダブルスタンダード、日本語で言えば二枚舌、インチキの類だろう。大国同士の「パワー・ポリティクス」では自国の前面に味方の小国を出して相手国に対峙させるのが常道ともあった。昔から日本は煽てられながらアメリカに利用されてきたとすれば、今も変わっていないようである。

内容の一部を切り取ればネトウヨ(似非歴史修正主義者)喜びそうだが、流石にアメリカの社会学者だ、全体を通せば深く考えさせられる。

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