2017年7月31日月曜日

読後感「東芝 原子力敗戦」大西康之著

著者は現在フリージャーナリストであるが元『日経ビジネス』記者だそうで、在籍時代から日本の産業関係記事では多くのスクープをしていたらしい。特に東芝関連では在職中から相当に問題意識があったようで、長年にわたる取材の蓄積がうかがえる。東芝国内で知らぬ人が無いとも言える総合電機メーカーの最大手、日本を代表する大手の優良企業と信じる人が多いはず。

しかしこの数年の報道を見る限り、企業会計に何かよからぬ噂が立つとともに優良事業部門を売却するなどが続き、素人には何が起きているのか分からないが不思議に思っていたところだ。しかし本書を読んで実態がよく分かり、改めて愕然たる思いを禁じ得ない。恐らく東芝と言えば新卒の就職先として極めて優秀な学生でなければ諦めるであろうし、事実優秀な社員が多いはず。

そのトップに立つ経営者も、土光敏夫氏がすぐに頭に浮かび、凡庸でない人が続いていると思ってしまう。ところがである、現在の東芝はもうボロボロ、株式市場に上場が許されるような状態には程遠い様だ(実態としては数千億円に上る債務超過らしい)。世界に冠たると称された医療機部門が切り離されたばかりか、最近は連日のように稼ぎ頭の半導体部門の身売りがマスコミを賑わしている。

株の売買に全く興味がなかったのでつい見過ごしていたが、東芝にとっては実に重大な局面を迎えているばかりか、日本の産業全体にとっても大きな曲がり角が迫っていることを実感できる読み物になっている。本の部厚さの割には絞られた内容なので、あまり深く書きたくないが少しだけ触れる。東芝は家庭用の電化製品でも世界的に名声を博してきたが、むしろ電力関係などの重電機部門でもトップに位置していたのも周知のこと。

2011年の事故で有名になった東電の福島原発は東芝が主力メーカーで、現在の後処理も東芝がなければなす術もない。確かに311事故が起きるまで国を挙げて原子力依存を強める方向で動いてのも事実。常に国策に準ずる姿勢をもって経営されてきた東芝としては不幸だったことに、国はこの大事故にかかわらずこの方針を変更することがなかった。むしろ安倍政権は成長戦略の柱に原発の輸出を置いたのである。

東芝はこの方針に従い、優秀な社員が世界を駆け巡り社業に精を出した。その結果起こったこと。次は出版社の宣伝文句である。『米原発メーカー・ウエスチングハウス買収をきっかけに、解体の危機へと追い込まれた東芝。経産省の思惑、国策にすがる幹部、暴走する原子力事業部員の姿を、社内極秘資料を元にあますところなく描く。』

最後に出版社の文春に一言。内容的には新書版で十分収容可能と思うが、敢えて高価な単行本で出版したのは少しせこく感じた。

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