2016年4月18日月曜日

読後感「日本の禍機」朝河貫一著

著者の名前を今日まで知らなかったことは、実に不明の至りと恥ずるばかりである。明治6年元会津藩士の息子として生まれ、福島県尋常中学校 (福島県立安積高等学校)から東京専門学校(現早稲田大学)に進み、明治28年に首席で卒業。同年に大隈重信・徳富蘇峰・勝海舟らの支援で渡米、ダートマス大学卒業を経て明治35年にイェール大学大学院を卒業した大秀才で、専門は比較法制史。

昭和17年にはイェール大学の名誉教授にまでなり、歴史家としての名声は世界的なものらしいが。昭和23年に亡くなるまでの生涯の大部分をアメリカで過ごしたためでもあろうか、法制史学者や故郷福島ではともかくとして、名前を知らない人の方が多いと思う。多くの著作があるが、英文で書かれたものが多い中で、この著作は明治42年に日本語で書かれて日本で発行されたとのこと。

明治42年と言えば日露戦争終戦から4年後のことである。アメリカ大統領がセオドア・ルーズベルト氏(共和党)の時代、本書を読む限り次期大統領がウィリアム・タフト氏(共和党)になることがほぼ確定していたようにも思える。
この6代後のフランクリン・ルーズベルト大統領(民主党)時代に真珠湾で日米開戦が勃発することになったことだけは知っている。

著者朝河氏は単なる秀才歴史学者ではない。熱烈な愛国者であって、日露開戦前から欧米の新聞に多数の投稿をして、支那が欧州各国から主権を侵されつつも、その軛を逃れて自主独立のために如何に苦労しているかを説き、特に東北地方に迫っているロシアの横暴を排除して支那を助けるために日本が正義の旗印のもと立ち上がったことを訴え続けたとのことである。また、日露開戦後はアメリカ政府に対しても同様の観点からの支援要請をしたり、アメリカが仲裁に入ってくれたことについても大きな役割を果たしたらしい。

アメリカが上手く仲裁してくれた結果、日本は勝利することにはなりはしたが、日本ではポーツマス条約に調印した小村外相が暴徒に襲われたりして、国民に不満が高まっていった。この国民の雰囲気が結局は政治を支配することを著者は恐れているのである。著者は本書で国民を啓蒙することを狙いとして書いたに違いない。謂わんとすることは明解である。「正義を掲げてロシアを打ち破った日本がロシアと同じように支那を蹂躙しようとする気配がある。このままいけば、遠くない時期に日米が戦争になるのは間違いない。そしてその結果は日本が惨敗するしかありえない。」

「何故ならば、国力が違い過ぎることは勿論、日本に正義が無いこと、日本人がアメリカ人気質を勘違いしていることである。」特にアメリカ人は個人主義で団結力が無いとか意気地なしと考えるのは皮相な見方にすぎぬ、とはっきり言いきっている。思うに現代のジャーナリストなり、学者でもいいが、国際的に己の哲学を発信して、人々の蒙を啓かんとする人間が一人として思いつかないのが悲しい限りだ。改めて明治の日本人の土性骨を知った思いである。

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