2016年4月11日月曜日

分かりやすさ

とても読む気にはならないが、石原慎太郎氏が「天才」なる著書を発表した。田中角栄元首相の評伝らしいが、一人称で書いているとのこと。何を今更と感じるが、これをまたテレビや新聞まで取り上げて大騒ぎをしている。著者の宣伝上手に感心していたら今月発売の文藝春秋5月号のトップ記事になってしまった。著書の出版社は幻冬舎となっているので、文春も落ちぶれたものだと思って雑誌を買うのも嫌になってしまった。

広告で見る限り、タイトルが「いま日本に必要なのは田中角栄」で、石原氏が何か書いている風情である。著者にいかなる考えがあったのか知らぬが、彼が現役政治家時代に徹底的に批判していたくせに「よく言うよ」としか言いようがない。著者は昔芥川賞受賞者には違いないが、作家として後世に名を遺すような作品は何一つ無さそうだ。時代の空気を読みながら大衆受けする言説を用いて都知事にまで成り上がったのだから、今風マルチタレントの先駆者として面目躍如だ。

著者に比べれば、田中角栄氏は分かりやすい。善悪とか好き嫌いを別にすれば、彼が目指したものは理解できるような気がする。多分それは個人的には「立身出世」になるのだろうが「身を立て名を上げるには世のため人のためにならなくてはいけない」なることがしっかり脳裏に刷り込まれていたように思えてならない。晩年は病に倒れ不幸ではあったが、絶頂期には近代の二宮金次郎くらいの自負はあったに違いない。

彼なりに国益を考えていたこと、金権体質であろうと党内を取りまとめ、最終的には宿敵福田赳夫氏を登用することに見られる通り、国家経営に関する人材登用が無責任でなかったとも取れる。個人的には好きなタイプとも言える。考えてみれば田中氏以前の政治家、特に総理なったような人には昨今の総理みたいに無責任な人間は少なかったのだろう。更に付け加えれば自分の考えを口にするにも、分かりやすい日本語を使っていたのではないだろうか。

疑問形で書くのは昔のことをよく知らないからである。印象深いのが池田勇人総理の「貧乏人は麦を食え」だ。いま「貧乏人」なんて言っただけで論議を呼びそうだが政治には分かりやすさが大切だ。彼はどんな政策か知らぬが、「所得倍増計画」も打ち出している。GDP600兆円とか期待出生率1.8なんて理解できる国民が如何程いるのかね。庶民には理解が難しいようなこと言えば偉そうに見えると錯覚しているのだろうが、自分自身が理解できていないことを証明していると同じである。

ブログも同じで、自分の考えを分かりやすく表現すべきだろう。言うは易く行うは難しである。

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