2014年10月31日金曜日

読後感「政治改革の熱狂と崩壊」藤井裕久著 菊池正史編

著者についてはTBS日曜朝の「時事放談」でしばしば観たり、大昔著者が政界入りしたての頃と思うが、こちらも永田町にあった会社勤務で、飯屋で直接見たりしたことがあったので、前から何となく親しみを感じたりしていた。勿論「時事放談」での吐露する見解には共感を覚えることも多い。つい先日この著書の出版記念パーティーがあって、政財界の重鎮が勢ぞろいとの記事を読み、早速購入して読んでみた。

この本は一種の自伝である。しかし少し変わっているのは、単に自分の来歴を誇らしげに記すことが目的ではなさそうだ。むしろ現役の政治家が著すように、自分の信念を述べ、現代社会への警鐘を鳴らすことを目的に書かれたのであろう。日本テレビ現役の報道部員(ずっと政治部で藤井番だったらしい)が編者として置かれているのも、きっと几帳面な性格のせいだろうがユニークだ。著者は元々大蔵省出身の官僚で、先輩であり当時大平派(宏池会)の代議士であった鳩山由紀夫氏の父鳩山威一郎氏に引っ張られて政界入りをしている。

しかし、先輩の派閥には属さず、官僚時代に秘書官を務めた田中派の重鎮二階堂進氏が所属する田中派に属することになる。この経緯がある意味面白い。現在も自民党には派閥の形は残ってはいるが、著者が政治家になる昭和50年代頃の派閥が全く別物であり、官僚と政治家の関係もかなり異なるであろうことを窺い知る内容となっている。田中、福田、大平、三木、中曽根、鈴木等よく知る総理達については、そのキャラクタ分析や決断の背景を知ると成程そう言う事かと納得した。

こういったことは出版の趣旨からすれば刺身のつまのようで、著者が言いたいことは多分政治を動かす原動力についてだろう。政治が国民に夢や希望を与えると国民に熱狂が生まれる。景気が良くなり、経済成長もしたような気になる。しかし、物事には全て表があり裏がある。尚且つ民衆は熱するも早いが冷めるのも早い。一国の経済だけが永遠に右肩上がりなんてことはあり得ないのだろう。インフレもデフレも極端に振れれば財政の破綻になり兼ねない。熱狂によって生じるバブルへの警告である。

田中内閣が列島改造の熱狂の後に何を残したかである。政治は夢を与えないといけないが、崩壊に結びつくようではしようがない。著者自身は大蔵官僚出身なだけに、国家国民の安寧には財政の安定が最重要課題との思いが強い。消費税が生まれ出た経緯を根源に遡って解説したいようだ。そして政治家として思いを遂げていくために欠くことが出来ないのが権力の奪取であるが、これも大蔵省役人の特徴と言うが、クールであり論理的であっても権力欲が無いようだ。

そこで、志を同じくして権力奪取手腕に長けた小沢一郎と組んだ所以があるのだそうだ。政治リーダーたる者は志を実現していくために、国民の心を掴まねばならない。これは民主主義であろうと何だろうと関係は無く、リーダーの腐心するところだが、小沢氏にその夢を託して長年付き添うが、結局は小沢氏とも袂を分かつことになる。政治とは如何に複雑怪奇なものであるか、ブログで政治絡みのことを書くのが怖くなった。

最後に非常に印象的であるのは、田名角栄氏が著者に語りかけた次の言葉である。「戦争を知っている人間が社会の中核である限り、日本は安全だ。しかし、戦争を知らない人間が中核となった時が問題だ。」



2 件のコメント:

tak さんのコメント...

田中角栄氏はよくわかっていた。もう戦争を知っている政治家はほとんどいなくなった。!

senkawa爺 さんのコメント...

takさん
コメントありがとうございます。
角栄さんのしたことについては毀誉褒貶あるでしょうが、平和主義は学ぶべきですね。