2014年9月10日水曜日

読後感「なつかしい時間」長田弘著

書店で書名が気に入って買ってしまったので、著者については何も知らなかったが、面白い随筆だった。著者は知る人ぞ知る著名な詩人で、小生とは年齢も一緒、大学は早稲田でドイツ文学が専門とのこと。同世代ではあっても知らないのも当然で、全く疎い分野の人である。ブログを通じての友人に一人詩人が居るが、この本を読んで改めて詩の世界の奥深さを垣間見た気がする。

読後感の第一は、読みながらそよ風に吹かれるような爽やかを感じてしまうことだ。文章全体を通して言葉が如何に重い意味を持つものか、その選び方の大切さがひしひしと伝わってくる。著者自身が書いているが、余程言葉を選び、研ぎ澄まして文章にしているのだろう。行き当たりばったりの言葉を連ねたのでは、とても他人様に読んでもらえる文にはなりえないことが分かって恥ずかしい限りだ。

文章もさることだが、取り上げているテーマも素晴らしい。詩人として静かに深く自身の人生を考え、冷静に見た社会現象に対する感想が今風に言えば実にクールだ。年齢が同じせいもあり、そんな生き方にも共感したり見習うべきことがあったような気がする。

中で一番感じ入ったことは、著者が繰り返し「風景」を重視していることである。小生も山歩きをしたり、ブログでも好んで「浩然の気」なんて言葉を意味も分からず多用している。今回初めて、人の記憶にある風景や映像にとてつもない意味や力があることを思い知らされた。言われてみれば実にその通りで、次の一文がその証明になっている。

「風景のなかにじぶんのあり方を見いだすことで、人は、日々の生き方の価値観というべきものをつくってきました。」風景が人に大きなインパクトを与えると同時に、それを表現する言葉の重要性については目から鱗の感じがする。

テーマは数十項目に及ぶが、もう一つ印象に残ったのが故人への思い。数年前に多分大学の同級生だったらしい夫人を亡くされたようだが、その葬儀の際の謝辞も良いのだけれど、亡き人々に対する思い入れの大切さなども実に繊細で、共感を禁じ得ない。



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