2013年5月17日金曜日

読後感「憲法9条の軍事戦略」松竹伸幸著

安倍政権になって、歴史に逆行するような言動が多くみられるが、憲法改正問題もその一つである。自民党の改正案には問題点てんこ盛りの感があるが、とりわけ9条問題の持つ意味は大きい。自衛隊は外国に行けば軍隊とみなされるから軍隊とすべきだとか、とても容認しかねる意見が飛び交っている。個人的には、世界に類のない組織であればこそ、外国に胸を張って「皆さんも真似をしたらいかがですか?」何故言えないのだろうと思っていた。

たまたまこの本のことをネット上のブログで知ったので読んでみた。1か月ほど前に出版されたばかりで、200頁足らずの読み物である。憲法9条についての議論は、護憲派にしても改憲派にしても、国の安全保障を如何に確保するかとの視点が欠落しているのではないか、が著者の主張となっている。
日本が先の大戦以来外国からの侵略を受けず、外国に攻め入ることもなく、戦争せずに現在に至ることが出来たのは、この9条を守り通したからに他ならない。

このことは大方の日本人が認めるところでもあろう。しかし実際にはイラクに自衛隊を派遣したり、インド洋に自衛艦を派遣して、かなりきわどい真似をしている事実もある。尖閣周辺に対する中国の行動については、改憲論筆頭の安倍総理は「今そこにある危機」と絶叫し、国の独立を確保するのが「国防軍」てな理屈で、軍の設立を何とか説得しようとしている。一方の護憲派は9条が軍事力の対極に位置する概念で、故に我が国が平和でいられるみたいな、些かピント外れの思いを持つ人が多い。

双方共に9条と軍事力は相容れない意味で共通しているし、国民全体の常識かもしれない。著者はバリバリの共産党員らしいが、それが間違いだと先ず指摘する。軍事戦略無しに国の安全もへったくれも有ろう筈がない。ここまでは素直に同意出来た。だから9条を以て日本の安全を確保する軍事戦略を検討しなければいけない。ここからが難しいところで、一般的に日米安保に依るアメリカの庇護(核抑止力)で日本の安全が確保されてきたことは認めつつも、米ソ冷戦構造が終結した現在、必ずしもこれに頼らず国連なんかで上手く外交を展開することで、小武装の軍事力で安全確保の道ありと言いたいようである。

前提となっているのは、戦争を起こすのは全部大国である。言われてみればその通りかもしれない。過去において先人(政治家・官僚を含め)はその戦争に巻き込まれないためにどんな努力をしてきたか。或いは外国で起きている紛争に国連はどんな働きをし、どんな効果を上げてきたか。具体的に述べている。最終的には9条を利用する軍事戦略の立てよう如何で、日米安保破棄までが視野に入ってくる可能性も示唆している。

一見荒唐無稽にも思えるが、日米同盟そのものが戦勝国と敗戦国の間に取り交わされた安全保障条約の上に成り立っていることを指摘されると、夢物語と切り捨てる訳にもいかない。改憲を考える上で参考にはなった。

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