2012年3月30日金曜日

読後感「この国の権力中枢を握る者は誰か」菅沼光弘著

昨年7月末に出版された本。実は著者の新刊「この国の不都合な真実―日本はなぜここまで劣化したのか? 」を店頭で立ち読みして面白そうだった。そこで図書館に行ったのだが、未だ貸出準備が整っていない。やむを得ず本書に切り替えたのだが、内容的にはかなり新刊に近いようだ。

著者は東大を卒業して公安調査庁に入り、調査員から調査部長にまで上るが、オウム事件(平成7年)の時にオウム真理教に対し破壊活動防止法に基づく解散命令を公安審査委員会が下さなかった事に対する抗議の意味で退職している。日本に於いては脆弱とされている諜報組織のプロと言えよう。

共産圏を担当していたこともあり、中国や旧ソ連の他に北朝鮮について相当突っ込んだ情報を持っている事がこの本からも読み取ることが出来る。丁度今北朝鮮ロケット打ち上げで、アメリカも含め世界が騒然としているが、著者が現役の頃は、アメリカも北朝鮮情報は殆どなくて、日本の公安調査庁情報を最も頼りにしていたらしい。

もちろん現在でも日本政府の対北秘密交渉は殆どここがアレンジしているようだ。出版が昨年の311大震災後なので、震災後の対応で表に出ていない話が沢山書いてある。スパイ組織の頂点にいた人だから当然だろうが。内容を書いてしまうと、未読の方の興味を削ぐので控えるが、最も印象に残ったのは日本人の本質を突いた以下の一文である。

「首脳は馬鹿でも、現場を担う人が強い」戦争中の旧日本軍についても、敵国であるアメリカやソ連ではで似たような事が言われたらしい。馬鹿と言う言葉少し語弊があるかと思うが、首脳が無責任であるのは今と変わらなかったらしい。外国では、指揮官がいなくなると組織は滅茶苦茶になって壊滅すると決まっているらしいが、日本はそうはならない。

今度の被災地東北地方に於いて住民が協力し合う姿を見て、戦後あれほど日本人の思想を変えるために様々な手段を講じたのに、本質が変わっていない。
アメリカ人からしたらさぞがっかりだろう。

日本を属国化するために、過去半世紀以上にわたってアメリカが打ってきている陰謀の数々については実に興味深く、思い当たる節が多い。今盛んになってきている政局にせよ、外交問題にしても、表面に出てきていない第三者が絡む別の思惑で動いている可能性が見えてくるようだ。裏を知る人から見ると、世の中はこう見えてくるのかと考えさせられる。


2 件のコメント:

Don Koba さんのコメント...

信長が「天下布武」を目標とし、その上に秀吉が政権権を確保したが、最終的には家康が武家政権を確立した。「公家諸法度」を通じ、天皇家をも従属させた。明治政府となり、国家統一の中核に、それまで全く端役で権力基盤(情報収集等)すら持たなかった天皇を据えた。伊藤博文は明治憲法を通じて、天皇の権威強化を狙ったが、実質的には軍部や官僚達の権力拡張システムになってしまった。戦後、「象徴」となった天皇は、新憲法下では「国家元首」とは規定されていない。つまり、国家的に最終責任を持つ人はどこにもいない奇妙な国なのだ。1年毎に交代する首相でもない。著者の菅沼氏は、「国家中枢」という言葉の定義をしているのだろうか?

senkawa爺 さんのコメント...

Don Kobaさん
いつもありがとうございます。

著者の認識は本当の権力者はアメリカの支配者、権力中枢は時の政権よりむしろ官僚機構そのものとしているように思いました。

今朝も家内と貴兄が指摘されたことを話していたところでした。
日本は三権分立とは名ばかりで、官僚組織がすべてを差配していると理解したほうが分かりやすいとの話です。
官僚組織である行政府のトップは政治家の総理大臣ですが、犬のしっぽが犬の頭の向きを変えているようです。
政治家もいささか無責任な感はありますが、顔が見えているだけまだましです。組織と位置付けた官僚側は常に顔が変わるので責任の追及ができない仕組みです。しかし顔は変わっても脈々と伝承される権益擁護の構造は変わりませんね。政治家に挙げる情報を官僚側でコントロールしているのですから話になりません。