2012年1月30日月曜日

読後感「父・金正日と私 金正男独占告白」五味洋治著

どこの書店でも売れ筋10位以内には必ず入っている評判の本。芥川賞受賞作品よりは面白かろうとの思いで読んだ。ここに書かれている内容の大部分は既に東京新聞には発表されていたらしい。2004年東京新聞の北京特派員であった著者が北京国際空港で偶然金正男らしき男を見かけ、「金正男さんでは?」と声を掛けたことがきっかけで、名刺を手渡すことに成功。

そしてその年末の12月4日に正男氏から突然メールが送られてくる。内容は、「9月にお会いできて嬉しかった、良い年をお迎えください」と言った何の変哲もないもの。空港で名刺を渡した記者仲間は5人がいたので、何故?とは思いながら「是非インタビューさせてもらいたい」旨の返信を出し合た事からメールの糸が繋がり、更にインタビューの実現に発展していったとの事。

著者は早速記憶に新しい(とは言っても2001年の事)日本への不法入国と中国への強制退去から率直な疑問をぶつけ、率直な答えを得ることに成功。それから約1週間、双方かなり率直なメールのやり取りがあり、メールの内容を記事で公開する事まで了承を取り付ける。しかしそこで、突然一方的にメールのやり取りの終了を宣言されてしまう。どうもメールのやり取りは彼だけでなく、他の記者たちとも同様に行っていて、中に彼が偽物でないかと疑った記者がいたのがいけなかったようだ。

連絡が途絶えてから3年後、五味氏はこの時のメールのやり取りを全文「文藝春秋」2007年3月号で発表する。それから更に3年後の2010年10月、又突然五味氏のもとに正男氏からメールが届く。「もし質問があればお答えしたいと思います。」ただ記事を発表する時期は、来年9月の後継者決定1周年を過ぎるまで待ってくれとの条件付き。1か月前に弟正恩氏が後継に任命されたばかりの時期である。

兎も角これで新たなオンライン対話が始まり、150通の対話がなされたそうだ。そして翌年2011年1月、正男氏が居住しているマカオの高級ホテルでの独占インタビューが実現する。世界初と称せられる快挙に違いない。そしてその内容が昨2011年1月28日東京新聞紙上に掲載される。やはりこれは相当大きな波紋を呼び、正男氏からこれ以上の公表を止めるよう要請が来る。

正男氏は本書で明らかな通り、北の経済政策、権力継承についてはかなり批判的である。中国の庇護のもとにあると言われても、身の危険には敏感にならざるを得ないだろう。五味氏も取材対象に対して誠意を以て当たったに違いない。互いに慎重に行動しつつ信頼関係の醸成に努め、昨年は北京でも再会を果たしている。

公開できる内容がある程度限定的にならざるを得ないのは仕方がない。正男氏がロイヤルマネーの運用を一手に引き受けているとか、麻薬のデリバリーの総元締めであるとかの噂については確認の取りようがないのも当然だろう。
しかし、若気の至り、過ちとは言え刺青をしている事は認めている。英仏露に加え日本語も20年から住んでいる中国語(殆どしゃべれないと語っている)も出来るようだし、日本には5回ほど、ヨーロッパには頻繁に行っているとも語っている。

中国政府とは接触が無いような事を言っているのも臭い話で。タイムリーな発刊時期でもあるので、謎は深まるばかりと言う意味では大変面白い。

2 件のコメント:

DonKoba さんのコメント...

興味深い本をいつもありがとうございます。それにしても、北朝鮮の情報が少ないため、正男に関する情報も売れるというものですね。
北朝鮮の存在は、複雑な要素を含んでいて、米軍の極東アジアにける軍事的展開の正当化の根拠ともなっているという説もあります。だから、アメリカ(軍産複合体)は本気で解決を図る積りはないと。沖縄問題、拉致被害者とも絡み、日本人としては複雑です。
最近、20万人に及ぶ市民を強制収容しているキャンプがGPSから撮影したものが公開されました。英語版ですが次をクリックすれば見れます。Hell on earth; Detailed satellite photos show death camps North Korea still deny even exist
また、同様の内容で日本語版としては、次があります。
北朝鮮の強制収容所、生還者が語る「犬以下の生活」
2011年11月25日 17:39 発信地:ジュネーブ/スイス

senkawa爺 さんのコメント...

DonKobaさん
いつもコメントをありがとうございます。

>北朝鮮の存在は、複雑な要素を含んでいて、
正にその通りなんでしょうね。想像するには余りにも情報が不足しています。
核爆弾の保有を含め、米中ロそれぞれの微妙なバッファーになっている可能性も否定はできないのでしょう。
この本がもたらす情報もごく微細な一面に過ぎませんが、犬以下の生活を強いられる人がいる一方、極僅かなファミリーがとてつもない贅沢をしている事を覗わせます。