2011年11月11日金曜日

読後感「男の系譜」池波正太郎著

昭和50年代初頭に出版された著者の語り下ろしである。著者のデビューは昭和30年との事だから、デビューしてから20年目から23年目にかけて、著者の薀蓄を編集者が聞き取って纏めたものだろう。著者の作品を全て読んでいる訳ではないが、これを読むと著者が戦国時代から明治維新の頃までの日本の歴史をどのように把握しようとしていたか、理解が出来るような気がする。

章建は戦国編、江戸編、幕末維新編の3章からなり、織田信長から西郷隆盛まで18人の人物が取り上げられている(内、番外として戦国の女たちが挿入)。取り上げられている人物は、必ずしも武将には限らない。歴史や当時の社会を理解しやすくするためだろう、町民である幡随院長兵衛とか織田の家来のそのまた家来でありながらも、当時槍の菅兵衛として天下無双と言われながら流転の生涯に終わった渡辺勘兵衛を取り上げている。

私はこの槍の勘兵衛については本書で初めて知った。著者の博覧強記、生き方のダンディズムについては、前から敬意と好感を持っている。それがどこから来ているかもよく分かる。即ち歴史に残った日本の男の生き方からなのだろう。私も70年以上生きてきたが、この人生で目の当たりにした人物のうち、2百年3百年後まで語り継がれる人物がどのくらいいるだろうか。

戦国時代と言えば16世紀、今から500年も昔の事だ。家康はそれでも75歳くらいまで生きたらしいが、信長や秀吉は50歳前後で亡くなっている。その短い人生で彼らがどれほどの事をしでかしたのか、改めて感心するばかりだ。現代は平均寿命が延びたこともあり、同年輩でも現役政治家が掃いて捨てるほどいる。彼らに歴史を学べと言っても無理だろうから、せめて本書を読むことを薦めたい。

確かに戦国時代から幕末維新にかけて、政権交代に関しては常に血生臭い闘争があり、主人公たちもそれに深く関わっているのも否定しようがない。しかし一様に言えるのは、目的がどうであれ、己の信ずるところに向かって常に自分も命かけていた事であろう。その事だけは物心ついた時から1日1刻も忘れずに励んでいた事だけは間違いあるまい。

「今の若い人に総理がいくら言っても、少年がテレビで国会のチャンバラ劇や茶番劇を見ても、あの猿芝居を見れば、そりゃ信用しませんよ。」昭和50年池波さんの言葉である。


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