読後感「幕末百話」篠田鉱造 著

明治時代のジャーナリストが長年にわたってコツコツ集めた聞き書きを、明治35年に「報知新聞」で発表、38年に単行本として出版したものである。当時は日露戦争の最中で、それいけどんどんの時代、暗い過去を思い起こす暇も無かったのか、あまり売れなかったようだ。それが戊辰60年に当たる昭和3年に東京日日新聞社から再出版され、今度は結構売れたらしい。手にした岩波文庫は平成8年に初版となっている。

明治維新は日本における大革命で、幕末から明治にかけては、大争乱と共に価値観が大きく変化した時代である。現代にもどこか似たような雰囲気がないでもない。内容は全て当時現存している人から聞きだした実話である。それも特に偉い人ではなく、いわゆる市井に埋もれている人々なので、権力や価値観の大きな変化に巻き込まれ市民の悲哀がにじみ出ている。お上に従順でなければならなく、事実従順であった江戸市民に対して、ある日突然官軍と称する占領軍乗り込んできた。

昭和の終戦時のように、ラジオ放送にせよ終戦宣言が出された訳でもない。市民感覚と言う物は鋭いもので、大部分の人は何となく臭いをかぎ取って、騒乱に巻き込まれないよう、逃げたり隠れたり準備をした事だろう。中にはそのタイミングをほんの少し見誤り、幕末に薩摩の武士の乱暴にたまりかね、それを捕まえたりしたばかりに、後に乗り込んできた薩摩軍に夫婦もろとも切り殺される事件もあったらしい。

幕末と言えば直ぐに西郷だ事の勝海舟、最近では坂本龍一なんかの話しで、何となく華々しさが先に立つが、日本全体として暗い時代であったに違いない。兎に角お話全体が、非常に殺伐として暗いし、一見華やかに見えても、裏か見たりその後を聴くと実際は貧乏くさい話しが多い。先人の苦労や悲しみが伝わってくる。

もう一つ印象的だった事は、いつの時代も変わら無いと感じた事。例えば、支配階級の武士社会でも人材的には玉石混交、ピンからキリまで居たらしい事。奉行制度即ち現在の司法制度の源流だが、これのいい加減さ。無実の人間を犯人に仕立てる拷問が日常化している事やヤクザな人間との馴れ合いなど。岡っ引き時代から今日に何かが繋がっているように感じてしまう。

大きく変わったようでも、根源的な人間社会の変化が如何に難しいかに思いが至ったような気がする。


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