読後感「普天間」交渉秘録 守屋武昌 著

今年から新刊書は買わない事にした心算だったが、余りに面白そうだから自ら掟を破って買ってしまった。結論的にはとても面白い。著者は言わずと知れた元防衛事務次官、航空機購入をめぐる汚職事件に巻き込まれ逮捕起訴されてしまった人物。何度もマスコミを騒がせたこの事件については何も触れていない。彼は防衛庁採用1971年(昭和46年)でプロパーの職員として初めてトップの事務次官迄登りつめた。それだけに優秀であったのは事実だろう。しかも東北大学の出身であった事と次官に4年も居座った事は、他の省庁を見ても希有なケースだろう。

彼は在職早々から日記はつけていたようだ。特に官房長になった頃から庁から省への昇格問題などがあり、重大な局面で誰がどういう動きをしたかを忘れないようにするために、意識して克明に書き留める事にしたらしい。本書はその記録をベースに書き下ろされている。先ず驚くのは役所のトップはあらゆる方面から情報が即時に上がってきている事だ。それは指揮系統ばかりでなく、マスコミ、政治家(与党だけではない)あらゆる方面に亘っている。その1件1件を瞬時に判断して対応を指示するのだから、官僚の仕事は大変と言えば大変だなと思う。指示を受ける末端はもっと大変だろう。

兎も角、本論の「普天間」問題。今問題になっている移転先の辺野古崎V字滑走路案に至る経緯だ。小生はこれが自公政権と地元との間で、長年かけてガラス細工のような脆さであったにせよ合意されたと理解していた。ところが、本書を読む限りとても合意されているとは言えない状況である事が良く分かる。先ず地元と言っても県知事、名護市の市長ばかりがマスコミに登場するが、この他にも沖縄には多くの市町村があり、住民がいて、企業が存在する事は忘れがちだ。国の方も誰が当事者かよく分からないが、この13年間地元との折衝は防衛庁が最前線にいたようだ。

先ず、冒頭に今年の4月読谷村で行われた県民集会に9万人が集結と報道されたが、公安筋では1.5万人と推定している、と暴露している。マスコミがいい加減なのは昔からだが、揃いも揃って主催者発表だけを流す事には些か怒りを感じる。話しが逸れたが、要は地元の政治家(首長)は国にいちゃもんをつけて金を引き出す事だけしか念頭に無いようだ。同時に国家の政治家はどんな役職についても一つのポストに長居する事も無いし、常に票と利権が欲しいのだろう、どうしても腰が据わらない。一寸地元から擽りを入れられると、すぐフラフラしてしまう。このあたりは全て実名で書かれているので「なるほど」とか「え、そうなの」と目から鱗の思いが多い。

そこに行くと官僚は、日米の関係や米軍再編問題に絡む国内外の交渉事についても、長年の経緯を積み重ねてきている中からベストと思われる案を抽出していると言う事だ。従ってリーダーシップのある政治家がグリップを利かせてくれればそれなりの所に収まるのだろうが、政治家は誰にしても理念や志では動かない事が良く分かる。この著者の場合、唯1人信念を曲げずにバックアップしてくれたのは小泉信一郎だけだったようだ。小泉はそうだろうが他の人間はいろいろあるなぁ。

官僚任せの弊害が取りざたされる中、本書は実に示唆に富んでいる。軍事お宅と言われ呼ばれ安全保障のエキスパートのような顔をしている石場茂すら、著者から見るとかなりいい加減で、移設に関する行動にも疑問符があるようだ。冒頭にも書いた通り、官僚にはあらゆる情報が集中しているし、政治が優先する政府の一員である以上、何を言うにもするにも政治家の了解が必要になる。特に担当大臣、官邸、関連部会、国会だの、この書に取り上げられている政治家だけでも大変な数になる。彼等と齟齬をきたさないようにするのは至難の技に違いない。

彼は確かに優秀であったに違いないが、何処かに齟齬をきたしていた事に気がつくのが遅すぎたと言う事だろう。もう一つは、民主党も「地元の皆さまの意向は無視しない」ような事を言っているが、それでは何年たっても普天間は解決できない事がはっきり分かった。

コメント

tak さんのコメント…
ほんとに面白そうな本ですね。アマゾンとリンクしていればそこから発注しますが・・
senkawa爺 さんの投稿…
takさん
コメントをありがとうございます。
是非ご一読をお勧めします。

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