2010年4月23日金曜日

読後感「小沢君、水沢に帰りたまえ」江藤淳 著

江藤淳氏の昭和末期から亡くなる(平成11年7月)直前約10年間の40件程政治的な随筆を集めたものである。冒頭の1篇が平成9年3月の「帰りなん、いざ―小沢一郎君に与う」である。小沢が新進党党首に選ばれはしたが、分裂の危機直前にあった時期のものである。小沢を貶めるために書いているのではない。更にこれから半年後、軽い沢の江藤氏山荘に小沢氏が訪ねて対談もしている。

江藤氏はこの本の中でもいろいろな政治家を取り上げ、それぞれ辛口の批評をしているが、小沢一郎についてはかなり評価していたように思う。「水沢に帰れ、」の意は小沢の政治的理想を評価しながらも、江藤氏自身が政界の汚辱に嫌気がさして、小沢にも権力抗争から身を引く事を勧め、別の高い次元で政治をリードするようにアドバイスしたつもりだろう。小沢は結局著者の意には全く反して現在に立ってしまうのだが。

本書を読み進むと小沢関係以外に様々な事が見えてくる。先ず日本の政治がここ20年ほど空回りしている事が良く分かる。行財政改革、郵政民営化、地方分権、日米関係、全ての念仏が20年たった現在でも同じように唱えられ、前政権ではその実が上がってこなかった。中曽根さんのいい加減さ、特に「ロン、ヤス」の軽さを厳しく批判したり、橋本行革や増税路線に対する批判については全く同感である。やはりこの頃から小沢路線を支持していたのだろう。

著者とは個人的にも多少のご縁がある。昭和の末期だったろうか、当時テレビ番組の制作に関係していて、何度か東京工大の研究室に伺って「日英同盟」についていろいろ教えて頂いたり、会食させて頂いた。それまで「海は甦る」の作者である事は知っていたが、政治的な論客であるとは知らなかった。未だメディアに現在のような政治的コメンテータが多数登場していなかった故もあろう。結果的に企画は没になったのだが、その報告に伺った時も嫌な顔一つされず、優しい先輩として接して頂き感激した事を記憶している。

著者については毀誉褒貶様々で、特に晩年の言動に関しては賛同しがたいものがあるのも確か。しかし同時代の同じ保守の論客石原慎太郎氏に比べると文章に格調があるし、人間的な優しさと純粋さを感じる。著者が自裁せずに生きて今日の政治状況を見たら何と言っただろうか?


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