2009年11月5日木曜日

戦場の掟 スティーブ・ファイナル著

<ワシントン・ポスト>紙特派員として長年イラクをリポートし続けてきた著者が2008年にピューリッツアー賞を受賞した作品。日本のメディアでは決して報道されない戦争を請け負っている民間企業とそこに働く人間、分かりやすく言えば傭兵の実態が赤裸々に書かれている。日本の陸自・空自も撤退し、米国も占領軍を撤退中かしてしまったかは知らぬが、街中でのテロなど相変わらず血なまぐさいニュースが時々報道されている。恐らく日本人の大半はイラク戦争に我が国がコミットした事すら忘れているだろう。

私自身もその一人だ。しかしこの本を読むと戦争が如何に酷いものかが段々分かってくる。国と国との戦争であれば、当事国の国民が悲惨な思いをするのも致し方ないかも知れない。しかしこの記者がレポートしているのは明らかに占領以降、新政権時代のテロとの戦いの話である。現在でも「テロとの戦い」は全世界の人がその責めを果たさなければいけないようにわが国でも喧伝されている。

しかしこの戦いの場となっているイラク国民から見たらとんでもない迷惑に違いない。なかでもその戦いのために生み出された新しい戦争請負産業、即ち正規の軍隊ではないが兵力の不足をカバーするために生み出された傭兵の集団の実態については米国内でも殆ど明らかにされないようである。又アメリカと言うのは不思議な国で、この機に乗じて戦争請負企業が幾つも興されて今や1000億ドル市場になっているらしい。

当然そこには命知らずと言うか馬鹿みたい人間が世界中からわんさと群がり(当然だが手にする金額は半端ではない)、企業がイラクに派遣している人数は公式発表はないが現在(2008年?)でも3万人から5万人と言われるそうだ。この本はそのうちの1人で陸軍をリタイアしてフロリダの大学で学んでいる時に気が変わり、ある民間警備会社の傭兵となって再びイラクに戻った青年と雇った会社とその同僚を核に話が展開する。

警備の対象はさまざまであるが殆どは国務省関係の人間と物資、時には軍隊そのものの護衛も引き受ける。彼らの頭にあるのはただ金による契約のみ、法律的にはイラク・米国どちらの法律も無視している。その代り、死んでもそれが公式に発表されることも無い。政府は彼らを重宝しているが、彼らとは無関係を装っている。彼らが引き起こしている無辜の民の虐殺は数知れないようだ。代わりにこのレポートの主役たちも悲惨な死に方をするのだが。

これが日本もコミットした戦争の実態かと思うと吐き気を催してくる。

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