2010年2月2日火曜日

"知事抹殺 つくられた福島県汚職事件"佐藤 栄佐久 著

このところ政治と金絡みで検察に対する批判が多い。実態について少し知るために、先日リクルート裁判について江副氏の本を読んだが、もう一冊被告人側の言い分をと思って、元福島県知事佐藤氏の書いた本を読んでみた。前者の場合は既に裁判が終わっているが、著者の場合は未だ最高裁上告中で結論が出ている状態ではない。但し1審の判決が検察の求刑に対してかなり軽くなったことから弁護人(リクルート裁判では特捜部長だった宗像紀夫氏)は実質無罪のようなものだと言ったらしい。2審の判決は1審よりさらに軽いものになっているのも事実。

彼も本書で、事件が検察のでっち上げで自分は無実であるとの主張だ。前半は彼が30歳代後半青年会議所活動から政治家に転身して参議院議員から福島県知事となり、県民主体の地方自治のために如何に中央官僚と戦ってきたかについての自慢話。後半が裁判に関する記述となるが、検察の捜査と取り調べのあくどさは江副氏の書と大同小異。後半の裁判記録からの抜粋で、彼の主張である『知らなかった事ではあるが、彼の兄弟やら部下やら元後援者が手を染めた談合事件に巻き込まれ主犯にされてしまった。』は検察の筋書き通りではあり、裁判記録を見ても検察の主張には矛盾が多くて納得できるものではない。としている。

余談になるが前半でかなり原子力発電問題に触れているのが、個人的に別の意味での興味を引いた。江副氏の場合もそうであったが、彼も拘置所で取り調べられている内に検察側のストーリーに沿った自白調書にサインをして保釈されている。これは当時毎日面会している弁護士からも、してはいけないとアドバイスされているにも拘らずである。結局裁判でこれをひっくり返して再び戦わざるを得ない事になる。自らも不本意であったことは認めているが、拘留が長引き周囲の人に及んでいる迷惑を考えると仕方がなかっとしている。経験した事がないので実感ではないが、察するにそのような環境に置かれる事を想像すれば分からないではない。しかしこのような自白強要が最近問題になっている冤罪を引き起こす可能性は無しとはしないだろうとも思う。

しかし裁判に関する言い分は片方のものだけを丸呑みにするわけにいかないのも事実。本人がいくら無関係と言っても、周囲の人間が談合と収賄にコミットしていたのも事実。その中で佐藤兄弟だけが断罪されて、最も深くコミットした人間(福島県の土木部長現役と前の2名)が証人喚問だけで罪を問われていないのが素人目には不思議と言えば不思議。この手の本は読後感を書くのも難しい。火のない所の煙かもしれないし見えないだけで火も有ったかもしれない、全面的に著者の肩を持つ気もしないし、検察のあり方には益々考えるべき事が多いと感じた。

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