2014年1月9日木曜日

読後感「第3の銃弾」スティーヴン・ハンター著 公手 成幸 訳

昨年の秋、文藝春秋社から「ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言 」が発売になった。上下巻で3200円もする分厚い書物だったので読んではいない。しかし同時に月刊文藝春秋に掲載された抄訳は読んだので大凡の内容は覚えている。結論的には、公式にオズワルドの単独犯行と結論付けられた事件であるが、この説は相当にあやしい。CIAの秘密文書には彼が事件の直前にメキシコのソ連大使館を訪問した時の記録があり、それがウォーレン委員会に提供されていなかったとか、CIAとFBIの連携が無かったとか、いくら読んでもストレスが解消しなかったことだけが記憶に残っている。

昨年暮れに発売になった本書は、著者が既に何冊も書いている海兵隊退役軍人で狙撃の名人ボブ・リー・スワガーの活劇小説。主人公のスーパーマンと銃が主役と言う筋立てに変わりはない。但し、これまでのシリーズは全て著者の想像の産物で、実在の人物が準主人公的に登場したケースはないが、今回は舞台背景をケネディー暗殺事件にとっている点が面白い。この事件は冒頭に書いたように、実に多くのストーリーが語られ、映画化もされているが、現在でも真相が藪の中である。

著者も相当念入りに調査をしたであろうが、彼が採用したのはやはりCIA陰謀説のようだ。ボブ・スワガーシリーズを殆ど読んで来たが、お話の構成がテンポやサスペンス盛り上がをが実にうまく配置し飽きさせない。特に今回は、事前に内容を少し知っても面白さを損ねることが無い筈だ。

そこで少し内容に触れることにする。例によって、スワガー小父さんが半世紀近く前の大統領暗殺事件に否応なく関心を持つことになる理由は、彼が狙撃手として高名であった故である。首を突っ込んで調べ始めると、様々な疑問が生じてくる。何よりも、これは事実らしいが、3発発射されたとされている銃弾が、1発しか回収されていないこと。物語の起点はここにあると思えば間違いない。単独犯とされたオズワルドの狙撃も、専門家から見ると不自然過ぎたようだ。

著者も同じだろうが、狙撃と銃器、銃弾の観点から見ていくと、どうしても単独犯とは考えられない。世間に出回っている仮説には共犯が存在するとしている説も多数あるが、著者が設定した説は未だ嘗て無いらしい。その共犯者は当時のCIA幹部で、真に優秀な狙撃手を中心にしたチームであったとしている。
チームメンバーの殆どは故人になっているのだが、親玉が生きていて、スワガー小父さんが真相に接近してくるのを察知し、最終的には直接対決で成敗される。要約するとこんな筋書きになっているが、このことを知って読んでも興味深く読めることは請け合える。

全くのフィクションであろうが、犯人側はCIA、主人公側にはFBIが応援するとの構造も何やら暗示的でもある。些かコミック的読み物ではあるが、こんなものに仕立てられる程に、アメリカには半世紀以上前から暗くて深い闇が潜んでいることに思いが至ってしまう。日本にも似たような組織の構築を願う人間がいるが、怖いことだ。

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