知らないのはこちらの知識不足で、エッセイストとして数々の受賞をされているかなり有名な方のようだ。父上が共産党の幹部でかなりのロシア通だったのだろう。著者が10歳の時に、チェコのプラハに置かれた世界共産党の交流機関雑誌「平和と社会主義の諸問題」の編集委員として派遣される。時は第2次世界大戦後世界は冷戦時代に入り、一方の雄であるソ連共産党が世界を赤色化するために未だ頑張っていた時代である。著者はそれから約5年間をプラハ・ソビエト学校で過ごすことになる。
この学校(日本的に言えば小学校から中学に当たる)は著者のように世界50か国から集まった共産党幹部の子弟子女を教育する場で、ソ連邦の中で選りすぐりの教育者による教育がされたらしい。著者は本書でその学校で仲良しになった級友3人を取り上げて、三部構成としている。何れも学校時代の描写があり、5年後の別離があって著者は日本でロシア語同時通訳として大成した後に、音信が無くなっているその3人を改めて消息を求め始める。
別離から既に25年近い歳月が経ち、それぞれ所在を探すだけでも大変だったが、目出度く3人の級友との再会が叶うことにはなる。さてこの3人の級友の出身地はギリシャ、ルーマニアとユーゴソラヴィアである。ヨーロッパには一度も行ったことがないので、この3ヶ国にチェコだのロシアだのと言われても地理的関係はなかなかピンとこないと言うかイメージしにくい。知っているのはギリシャがバルカン半島のどこかで、ユーゴと言う国は既に存在せず、数か国に分離して悲惨な戦争を繰り返していることぐらいか。
現在ギリシャ問題がユーロ帰属が危ぶまれているのは知っているが、ギリシャでの共産党の位置付けなども知る由もない。ユーゴから来ていた旧友は最後に分かるのだが、ボスニアヘルツゴヴィナ出身のモスリムだった。ここの出てくる国名は全て東欧と括れそうと思ったが、それも違うようだ。勿論、共産党イディオロギーが世界中にどのように発展し、そして破綻していったか、分裂破綻の原因となった内部矛盾は何かも全く知らなかったが、3人の描写を通してその一端を垣間見るような気がする。
地理は勿論だが、民族やその歴史についてもチンプンカンプンである。にも拘らず、本書はその難しいところを友人3人の波乱に富んだ人生を語る事で、実に巧みに理解を進め、興味を引き込んでいく。後書きにあったが、民族と歴史、思想・主義の変遷について日本人は(勿論小生もだ)ノー天気であるのは間違いない。一方で元少女の一人が語る「国家に愛着を感じるのは、友人、知人、隣人がいて、その人たちと一緒に築いている日常があるからでしょう。」一言が印象的だ。
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