2012年4月18日水曜日

読後感「君たちはどう生きるか」吉野 源三郎 著


感想を書く気にならない下らぬ小説を読んでいたので、読後感が久し振りになった。小生が生まれる3年前の1937年初版である。作者は児童文学者で、小学校高学年から中学生ぐらいを対象として書いたのだろう。主人公は東京山の手本郷界隈の中学1年生、お父さんを亡くして、叔父さんが父代わりでいろいろ教えてくれる設定になっている。

何十年も児童文学には近づいたこともないので、現代の児童文学にどんなものがあるかは分からない。しかし僅か数十年昔の日本には、随分すぐれた児童向けの読み物があったものだと感心するばかりだ。数日前にテレビを見ていて似たような思いをした。放送局は忘れたが、古い童謡や小学校唱歌の特集番組だった。感心したのはメロディーもだが、これは一先ず置いて、歌詞の素晴らしさだ。

現代、幼稚園や小学校でこれ等をどのように教えているか知る由は無いが、「朧月夜」とか「背比べ」なんかも1番の歌詞はおぼろげに知っているつもりだが、3番4番となると、へぇ、こんなこと(男の子は鯉のように雄々しく育ってほしい)まで歌いこまれている事に感心したばかりだった。同じくこの本は、子供たちに正しく成長してほしい願いを込めながら書かれた著者の気持ちがひしひしと伝わってくる。

ただ直裁な表現の歌謡と異なり、多分に文学的、哲学的なアプローチと言うべきだろう。どの少年も経験しそうな事を、主人公の体験談と悩みとして描き、そして叔父さんが時に応じてアドバイスを与えるユニークなダイアローグ形式で書かれている。著者が伝えたかったテーマは多岐にわたるだろうが、中学校新入生の教室風景から終章締めくくりの10章に編成されていて、実質最後の9章は仏教の仏像にをテーマとし、世界の宗教にまで話が及んでいる。

内容は72歳の老人にさえ、とても教えられることが多いし、知識として初めて知る事もありとても新鮮。著者は戦争中に軍部から睨まれるほどの自由主義者とのこと。人間社会で生きていくうえで、多分避けて通れない悩みなんかについて、実に適切なアドバイスを提供している。人間は必ずと言うくらい間違いを度々おかし、後悔する事もたくさんある。それを乗り越えるのが成長だとするのは、正に同感。後書きを丸山真男が絶賛して書いている。

昨日のブログで生半可にも教育問題に言及してしまった。今こそ著者に一言意見を聞けたらの思いしきりだ。現代は偉そうに政治家になる作家が居たりはするが、平易に倫理を語る作家がどうしていないのだろう。嘆かわしい限りだ。

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