2012年2月6日月曜日

時代認識

経済通の友人が「今年の景気見通しは極めて明るい」と語ってくれた事を先週末に書いたばかりだ。景気に左右されるほどの仕事もしていないので、景気を肌で感じることが出来ないからだと思うが、聞いた時はあまりピンとこなかった。

今日たまたま愛読しているメルマガを読んでいると、友人の言葉を裏付けるような記事があったので紹介したい。メルマガの筆者は高野孟氏、タイトルは「失われた20年」というのは本当か? ──親は馬鹿でも子は育つ」
2月1日の衆議院予算委員会に於ける仙石民主党政調会長の質問に絡み、高野氏は仙石氏の質問、即ち総理の答弁をもっと追究すべきだったとの趣旨で書いている。

国会での与党内の駆け引きはこでは置くとして、仙石氏が取り上げた今年1月6日のニューヨークタイムスに掲載された記事の方に注目したい。高野氏もNYタイムズの卓見と述べているが、成程面白い。曰く「海外でも日本国内でも日本の『失われた20年』という見方が常識のように罷り通っているが、日本人がそう思い込んで悲嘆に暮れているのは自虐的だ。この20年を単なる不況と勘違いしたり、個々の政策選択の誤りのせいにしたりするのでは本当の問題が見えてこない。」として経済の質的変化を自覚すべき時と言っている。

仙石氏の国会での引用は、「過去20年に於いても、日本はアメリカなんかに比べると経済運営をかなり上手にやってきている様々な指標がある。そのうちの幾つか(平均寿命、経常収支、失業率、インターネットインフラ等)を見ても、米国に比べれば遥かにましだ。金融財政の破たんを招かないために早期の一体改革に取り組むことが焦眉の急務、『失われた20年』と思い込んで悲嘆に暮れているのは自虐的だ。この20年を単なる不況と勘違いしたりするのでは本当の問題が見えてこない。」と野田総理の応援への枕詞で使っている。

高野氏はその使われ方が不満で、この論説が述べている別の角度に注目しているのだそうだ。即ち、日本が生産財の生産国へと進化を遂げてきたことに注意を喚起していること。彼はこれを卓見とし、私はその兆候が見えてきた20年以上前から繰り返し指摘してきたとしてこう述べている。

「日本の輸出構造が自動車・家電など大量生産型の耐久消費財主導から部品・素材・生産設備など資本財(≒生産財)中心に変容を遂げてきたことが重要。これら生産財は、高度の部品や素材、あるいは精密加工装置などからなる。それらは消費者の目には見えないが、しかし、それなしには現代世界はまさに存在し得ないだろう。高度に資本集約的であると共に高度にノウハウ集約的でもあるこの種の製品は、1950~60年代には米国が事実上、独占していたものであり、それこそが米国の経済リーダーシップの本質だったのでる。」

「日本がいつまでも消費財の生産と輸出にしがみついていないで,日本でしか出来ない、あるいは日本で作られたものが品質が優れていて高くても買わざるを得ないような高度生産財に輸出の中心をシフトし、今では輸出の7割までがそのようなもので占められていることが、東アジア全体の旺盛な消費財の生産と輸出の支えになっているのである。ここを押さえないと、21世紀日本の生きる道は見えてこない。」

長々と引用したが、高野氏も日本人は勤勉だから政治家は馬鹿なこと言って猿芝居を演じているが、民間は着々と前進を続けていると言いたかったらしい。確かにソニー、シャープ、パナソニック等家電メーカーの大幅減益が報道されている一方で、東芝、日立、三菱等重電メーカーの減益が聞こえてこないような気もする。原発関係で大打撃かと思っているのだが、不思議でもある。

難しい問題は分からないが、あまり心配しても始まらない。これが自己流の時代認識だ。これを書くために久し振りに予算委員会の実況(仙石氏の質問1時間強)をネットで見た。参考になる事が多々あったが、こういう事は新聞テレビでは先ず見ることが出来ない。


4 件のコメント:

DonKoba さんのコメント...

生産財・中間財等の技術集約分野における日本の強さは、相当以前から立証されてきた。韓国の対日貿易収支が常に赤字であるのは、韓国の輸出品の部材を日本に依存しているから。東日本地震やタイの洪水で日本メーカーが打撃を受けたのも、今日、特に製造業では、部品・中間財の多くが「サプライ・チェーン」の枠組みの中で生産されてきた結果と言える。先日亡くなったスティーブ・ジョブズのiPhoneの部材の多くは日本、韓国、ドイツ製なので「Made in America]ではなく「Made in the World」というのが適切とか。オバマ大統領の最近の一般教書の中で、海外で生産する(アウトソーシング)米企業に対し税制優遇措置を止め、アメリカ国内の雇用を増やす国内生産企業にこそ優遇措置を与えるべきだと強調ぢている。生前スティーブ・ジョブスとオバマが議論した際、オバマが「国内生産に集中するべきではないのか」と迫ったが、ジョブズは全く否定的回答をしたとか。アップルの大成功は従来の生産哲学と全く違う世界に入ったのかも。しかし、中間財に特化しているだけでは、アップル型の成功は実現できないのも確か。日本の家電メーカーが直面している課題もその辺にありそう。

yam さんのコメント...

生産財企業も終局的には消費財産業に依存しています。共栄共存じゃないですか。半導体製造企業(チップ生産過程に必要な装置製造販売)で働いていましたが。チップ需要の浮き沈みに一喜一憂したことでした。

「失われた20年」を代表するとされるのが20年来の日経225の衰退とデフレ経済ですが、同じくバブル崩壊危機を切り抜けつつある米国経済では、既に、株式市場はバブル以前の価格を取り戻しつつあります。原動力となっているのは既成企業の破綻と再生(自動車業)がある一方、他方には、消費経済のゲームチェンジャー(アップル、アマゾン、グーグル、フェイスブックなど)と無数にあるハイテク起業です。優秀な若者はグーグル、フェイスブックのような起業の夢を追う、これが世代毎に繰り返されます。日本の大学生の就活の第一希望は、相変わらず、官僚か大手企業じゃないですか。アメリカの優秀な若者とは根本的な価値判断の相違があります。開放的な移民政策で世界中から優秀な技術者を移民させるアメリカ、移民に関しては鎖国的な日本。このような相違が「失われた20年」の脇役となっていると思われます。

senkawa爺 さんのコメント...

DonKobaさん
コメントをありがとうございます。
何度も言うように経済のことは全くのど素人ですが、これからの世の中では、アップル社のみならず日本でも気の利いた企業はどこぞの国に属しているなんて考えないで逞しく生きていくでしょう。

しかし地球上に存在する200か国以上もの国々とそこで生きている人民はどうなるのでしょう?

国家から支給される給与で生計を立てる人間は、収奪される税金とのバランスが常に上手く調和するのでしょうが、地べたや浜に張り付いて生計を立てている民草は国によってかなりな違いが出ざるを得ないでしょう。

EUのような広域経済圏が形成されても、国の差は容易に解消されないでしょうし、かといって大企業のように国から逃げ出すわけにもいかず。今の日本は多くの人にとって極めて快適な環境だと思いますが、あと2世代(50年から60年くらい)はこのまま行ってほしいし、政治家もこのままいくだろうと無責任に考えているように見えて仕方ありません。

senkawa爺 さんのコメント...

yamさん
コメントをありがとうございます。
DonKobaさんへの返信にも書きました。優秀な企業は日本のマーケットも政府も重要視していないと思います。需要を世界的なスケールで追いかけるだけでしょう。

政府は駄目な企業、駄目な産業、駄目な人民を如何に支援するか、助けるかにもっと傾注すべきではないでしょうか。と言っても金をばらまけということではありません。私は何か重大なことを見落としているように思えるのです。例えば、教育の問題とか、正義が通らないところがあって、悪事が見過ごされている、無責任が当たり前になっているところが随所にあります。

これが正されないと庶民は浮かばれない筈です。