2012年2月22日水曜日

読後感「ブラック・スワン降臨―9・11‐3・11インテリジェンス十年戦争」手嶋 龍一 著

著者は言わずと知れた、NHKワシントン総局長まで務めた著名なジャーナリスト。彼の小説は以前2冊読んでいるが、あまり面白くなかった。今度はフィクションではなく、ノンフィクションの形態である。と言ってもジャーナリストとしての矜持からだろうが、ノンフィクションとは言わず、どこまでも小説を装っている。本人は前書きも後書きも書いていないで、解説として別の人が書いていた。どこかの雑誌に連載した何年間分のコラムをまとめて1冊にしたものなので、インテリジェンス的には非常にリスキーとの事。

雑誌のコラムは、その時機に応じて知ったかぶりで書かなければならない宿命がある。当然間違った情報も発信せざるを得ない事を断っている。内容的には確か7章か8章に分かれ、小説的な脈絡は無い。第1章がオバマ大統領が盟友のパキスタンの裏をかいて、ビンラディン暗殺に至る決断について書き、最終章で日本の菅政権を見舞った昨年の311災害に於ける政府の周章狼狽ぶりと、最高指導者の決断力欠如が対象になるような構成になっている。

著者は外報部の記者として2001年911事件の時はワシントン駐在でもあり、他にロシアをはじめ様々な国の取材を経験している。その経験から見えてきた直近10年で日本が直面し、今なお解結されない外交問題について問題提起をしているようだ。特にアメリカの外交スタンスがブッシュの戦争で中東にシフトし、東アジアの抑止力が手薄になってくるのと期を一にして、中国が国力を増してきている。オバマがその路線を再び元に戻そうとしている事。

こういった外的要因の大きな変化に、民主党は全く適切な反応が出来ず、日米安全保障が揺らぎ始めている事を強い口調で非難している。特に鳩山氏があまりにも外交音痴で、日米の信頼関係を一気に突き崩したと批判。「眼前の懸案を解決出来ないにもかかわらず、ありもしない選択肢を弄ぶ愚者の政権は悪と決め付けられる。」と手厳しい。


小泉氏の対米追従は、あれしか方法が無かったろうとやや寛容でもある。「大国がしのぎを削る冷徹な世界にあっては、力を持つ者こそが正義で、力の無い者は自分の存在そのものが悪と決め付けられないよう振舞うのが精々。と擁護している。何れにせよ彼が心配なのはアメリカのプレゼンスが小さくなると、必然的に周辺諸国(中国であれロシアであれ)はちょっかいを出してきて当たり前である事。

インテリジェンスとは目に見える徴候から何を読み取るかであるが、日本の政治家はまるで駄目だ。国内で足の引っ張り合いをしている陽気ではないだろう、と言いたい気持ちがよく伝わってくる。最後に大震災の時の対応で日本の首脳が如何に無責任、決断力に欠けるかをアメリカと比較して述べている。首脳がヘリで前線視察に出ると碌なことが起きないらしい。

ブラック・スワンとは「ありえない」とされている事の喩えで、「ありえない」が起こることを想定して予防するのがインテリジェンスだそうだ。過去2冊に比べると遥かに良く書けている。

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