それを証明するためかのように、フィクションの形を取って世に出されたのが本書とのことだった。確かに形は小説風にはなっているが、小説とは言い難い。ストーリー性が無いに等しいのである。一応は近未来のある大晦日、折からの爆弾低気圧がもたらした大雪の中で、外国人によって日本海側から首都圏に繋がる高圧送電線ケーブルがテロリストによって簡単に2本ほど倒され、それが原因で日本海側にある原発で福一と同様の事故が発生する、といった放送紙には包んでいるが、ストーリーはそれだけのことである。
90%を占めるであろう中身は18章に分断され、この2年半に報道されてきた原発を巡る報道の中で登場したメディアの取材対象を適当に名前をつけて登場させ、政官財癒着の問題点をクローズアップしようとしているようである。当然いろいろなニュースを繋ぎ合わせているので、無理が目立ってしまう。例えば、新潟県泉田知事キャラクタの上に佐藤栄佐久福島県元知事を被せて、逮捕されてしまう設定をしている。
中身の方には別建ての主人公も用意されている。福島の畜産農家出身で、父が風評被害等を儚んで自殺してしまった元テレビ局キャスタと、資源エネルギー庁の安全・保安院から環境省原子力規制委員会に横滑りした若手のキャリア官僚の二人が一応それにあたる。正義感に燃えて規制委員会の無力ぶりを正義感に燃えてマスコミにリークして、結局国家公務員法違反で逮捕と、まるで最近のニュースを手当たり次第に掬い上げたい気持ちばかりが先行している。
故に深みや新鮮さが全く伝わってこない。政策変更の目玉が経産省の中にあった原子力安全・保安院を廃止して、環境省に原子力規制員会を設置していることで、原発推進と規制側を明確にしたことにあると言われてはいる。しかしそんな程度のことで従来のずぶずぶの関係が無くなり、厳しい規制が行われつつあるなんてことを信じている国民は、本書を手に取るまでもなく皆無に近いだろう。現役官僚が書いたと言うことさえ宣伝の手段に過ぎぬのではと言われたり、反原発陣営のご粗末さ証明の為に推進派が策を弄したのでは言われてしまう所以でもあろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿